前日紹介したわたしの自製テンヤと、大原の船頭が打ったテンヤとカブラを見比べてほしい。

 船頭の打ったテンヤもカブラも孫鉤は軸太の頑丈なもの。それは孫鉤にもサルエビを刺して、鯛がどちらに食っても硬い口に鉤先を通すように考えられている。

 大原でビシマという紀州・雑賀崎漁師直伝の手釣り道具で鯛を釣っていた時代、船頭はエビ網を曳いてサルエビを捕ってエサにしていた。朝と夕、釣り客を乗せ、帰港し船を洗い、夕食を済ませるとすぐ船に乗って桁網を曳いてエビを捕り、選別してエビ籠に入れて生かしておく。そして朝の3時には起きて早朝出船の準備にかかる。

 ほとんど寝る間も無い暮らしで、その疲労は計り知れない。そんな過労がたたって、富士丸の先代は、過労がたたって連休後に倒れ、帰らぬ人になってしまった。カブラの打ち方を取材させてもらった折、「鯛はどうやって食べるのが一番美味しいの?」と聞いたら、「はぁ、オラ、テエなんか食ったことねえからしんねえったね」と言う。「オラが釣ったテエはよ、全部市場にだすだよ。家族を養うためにゃ、貴重なテエなんか食えるもんか」と憮然とした顔をしていた。

 だがやがて浅場でのエビ漁は、千葉県の漁業規則違反で禁止となってしまった。一時は銚子方面から生きたエビを買っていたが、それもかなわず冷凍エビのエサが主流になって今日に至っている。

 

 20年ほど前に考案したひとつテンヤ釣法で使用したテンヤの孫鉤は、細く小さいチヌ(黒鯛)鉤を使っていた。その理由は前日にも書いたが、鯛の口角周りに刺すことを目的だった。だから一緒に考案したO船長は、「孫鉤にはエビを刺さねえでくんなよ。エサが無駄になんからよー」と客にアドバイスしていた。孫鉤のハリスはフロロカーボンラインの5号だが、鯛に食われたらひとたまりもない。大鯛を釣った方はご存じのように、大鯛に噛まれたテンヤもカブラも圧力が数トンとされる鯛の破断力は半端じゃない。わたしも記念に持っているが、テンヤの鉛などグニャリと潰されるし、カブラには歯形が無数に付いている。

 だからひとつテンヤ釣法で使う孫鉤は、本来、鯛に食わせて掛けることが目的ではなかったのである。ではどうするか? ただ遊ばせておけばいいだけのこと。

 今は、冷パン(冷凍エビ)の頭に孫鉤を刺し、頭が落ちないようにしているが、これはほんの気休めに過ぎない。最も効果的なの、ただブラブラ遊ばせておけばいいのだ。すると鯛が暴れ、鯛の唇や下顎に刺さり、鯛の動きを弱める効果を発揮するのである。

 こんな効用、これまでテレビの釣り番組でも聞いたことがない。そう、釣り人もディレクターも知らないのである。

 かつて村越正海氏が「ザ・フィッシング」でつるの剛士が掛けた鯛に親鉤が貫通していたのを見て、「昔はこの掛かり方が正解とされていたんですよ」と説明していたが、彼もひとつテンヤ釣法の開発に関わってくれた人。とくに細いPEラインの使い方とスピニングリールのひとつテンヤでの使い方にアドバイスをくださった。彼のユニークというより理論的な思考はどんな釣り人より優れたいたのである。

 鯛釣りは、もともと各港で名人といわれた漁師だけに許されたもの。鯛釣り漁師は、アジやサバなどを釣る「小釣り漁師」よりも格上とされてきた。

 それが釣り人に伝受され、「遊漁」の対象となったのはそう古い話しではない。

 たしかに我々の釣りは遊びである。だが遊びだからこそ、金と時間と手間をかけて創意工夫があってしかるべきではないだろうか。