「今度の結婚記念日は、何周年になるんだ?」

「55か56年目じゃないですかねぇ。もう数える気にもなりませんよ」

 今朝、こんな他愛も無い会話を交わした。

 50周年の金婚式までは指折り数えたものだが、壁に掲げた大きなカレンダーの10月18日に「結婚記念日」と小さな書き込みがあり、結婚した年月日が書かれているが、もう老眼では見えやしない。

 120人ほどの人を招いて、当時流行の「人前結婚式」をホテルで行ったが、思い出したくもない。それはメインイベントの誓いの言葉。壇上に二人で立ったのだが、わたしは美濃紙を手に持って墨書された誓いの言葉を読み始めたが、会場がざわついたのである。隣で妻はモジモジと下を向いている。幼い頃から「感謝の言葉」などを右代表で一人で読んできたので、何のためらいも無く一人で読み始めてしまったのである。

 式場の担当者が慌てて、「紙の両端をお二人それぞれで持って、お二人で声を合わせてお読みください」と指図された。

 わたしにしてみれば「そんなこと、早く言ってよー」の世界だが、担当者も妻も「そんなの常識でしょーが」だったようだ。

 人生で一番恥じ入った日の悪夢のような思い出である。

 互いの生き方にいっさい口を挟まず、財布を別にした(ほとんどわたしが食わせてもらった)暮らしが、円満の秘訣のようだ。