物忘れ日記  1 (2026年10月24日)

 

 老眼鏡が欲しいなと思った頃から、物忘れが始まったようだ。

 

 仕事関係の細事は意外と忘れないのだが、俳優や歌手の名前となると、生活を左右するものではないので、度忘れ現象が始まったようである。

 

 今でもそうなのだが、若い頃から好きな俳優の名前が出てこない。この症状は、極道の妻たちの主人公役が評判だった岩下志麻の名前が思い出せないことから始まったのである。色々と記憶の引き出しを探ってみるのだが、その日のうちに見つかるようなラッキーなことは無い。

 

 知識人に言わせると、こう言う度忘れは、その都度必死になって自分の記憶の箱を探し回って、何としてでも思い出しておかないと、度忘れが癖になってしまうそうだ。そこで、思いつくだけの俳優の名前をアイウエオ順に並びたてて行くのだが、見つかったためしがない。岩下志麻と言う名は、アイウエオ順ではすぐに出て来る名前なのだが、石原さとみは出てくるのだが、それ以外の「い」から始まる俳優の名前は出てこない。

 

 「い、い、い、い、い」と呟きながら、記憶の底を探っていると、犬養毅などと言う政治家の名前が浮かんできてしまう。この名前が出てしまうと、僕の連想は全くお門違いな方向に進んでしまい、その後は、岩下志麻と言う名は絶対に浮かばなくなってしまうのである。そこで、渋々ネットで調べてみて、やっと岩下志麻の名前に辿り着くことになる。

 

 こんなことは何度も起こるのであるが、次第に岩下志麻の名前は、無意識の世界にしまい込まれ、そのうちに岩下志麻の名前の度忘れは常態化してしまい、思い出すのが非常に難しい名前のグループの一員になってしまうのだ。今日この頃、思い出しにくい有名人の名前の僕のランキングは、岩下志麻、船村徹、星野哲郎、藤山一郎、小林旭などである。

 

 フロイトに言わせれば、人の頭脳は、己の心のコンプレックスに触れる言葉や人の名前は、無意識の世界の命令で思い出しにくくしてしまうものだそうで、「連想法」という精神分析学の手法では、思い出しにくいことは、被験者のコンプレックスを探るのに大事な手掛かりになるらしい。とすれば、僕にとっては、岩下志麻、船村徹、星野哲郎、藤山一郎、小林旭の名前から連想される共通した何かが、僕の心のコンプレックスに直結しているのだろう。それが何なのかは未だに分からずにいる。