今回は、高級ワインについてお話ししましょう。僕はビールがとても好きですが、ワインは、クリスマスイブの日の夕食の時に飲むか、週に1回ほど「ビールをもう1缶開けるとちょっと多すぎるから、代わりに赤ワインでも少し飲むか」などと言って中くらいのコップに半分ほど飲むか、あるいは寝酒代わり少し飲む程度で、当然、ワイン通ではありません。
 
 今から7, 8年ほど前に大きな学会のかなり有名な賞を頂いたことがあり、僕の友人たちが金を出し合って10万円ほどの高級ワイン(シャトー・マルゴーだったと思います。それでもアマゾンでは7, 8万円でしょう)をお祝いに呉れました。まあ、半返しをするので、結局の所は、そのワインを5万円で自腹を切って買ったと言うことになります。それにしても、正価が10万円などと言う高いワインなどは飲んだことがないので、何かとても良いことがあったら、家族皆で飲もうと言うことになりました。元々、たまに人からお歳暮で貰う5,000円程度の中級ワイン(アマゾンだと3,500円ほどでしょう)の熟成を兼ねた保存用にワインセラーを買ってあり、赤ワインはそのワインセラーに保存しているのですが(白ワインは味が軽いので,入手したらすぐに飲んでしまいます)、その10万円の高級ワインはポリエチレンかなんかの緩衝シートに包んで、あまり熟成が進まないようにと冷蔵庫の野菜室に保存しておきました。
 
 それから5年ほど経った頃のことでしょうか、その間、特にその高級ワインのコルク栓を抜いて家族で乾杯するほどの良い出来事もなく過ぎていました。ある夏場の日に、前にも書きました僕の行きつけの鹹水湖の釣り場でかなり大きな50 cmほどのセイゴ(スズキの小さいもの)が釣れました。その日の夕食は、スズキのムニエルにしようと言うことになり、丁度、数日前にお中元に5,000円ぐらいの中級の白ワインをもらっていたので、それを飲みながらスズキのムニエルを楽しもうと思い立ちました。白ワインはワインセラーの12度よりもっと低温にした方が良いと思い、プチプチ緩衝シートに包んで冷蔵庫の野菜室に入れて置きました。
 
 夕方になり、「さて、白ワインも良く冷えたようだから、コルク栓を抜いて、ちょっと試飲してみようか」と思い立ち、冷蔵庫からワインの瓶を取り出し、緩衝シートを剥いで、コルクボーラーでスポンとコルク栓を抜きとり、いつも気軽に使っているやや厚手の安いコップに注ぎ入れました。すると、何と言うことでしょうか、赤い色のワインが注がれて来たではありませんか。???と思った瞬間に、「まさか、あの高級ワインを間違って開けてしまったのではないか」と疑念が心を過りました。そして、そのワインの瓶のラベルを見ると、なんたることか「CHATEAU MARGAUX」と印字されているではありませんか。少し震える手でネットで詳しく調べてみると、それは確かに正価が10万円ぐらいの高級ワインではありませんか。
 
 女房に、「間違って、白ワインではなく、わが家で一番高い高級赤ワインを開けてしまった」と伝えたところ、もちろん大いに僕の粗忽さを咎められましたが、女房が言うには、赤ワイン、それも高級赤ワインを飲むなら、魚料理じゃダメ。スズキのムニエルは明日にして、今夜は、ステーキにしなさい」と言うことでした。逆らう訳にも行かないので、「そうだ、冷凍庫に貰い物のかなり値の張る牛のヒレ肉の厚いのがあったから、それを焼こう」と考え、ネットでプロのコックさんの推薦しているレシピ(最初に、常温に戻した肉を、フライパンで1,2分両面を強火で焼き、その後はオーブンで5分ぐらい焼くと言うレシピ)に従って焼くことにしました。このレシピは、以前にやってみて丁度良いミディアムレアの焼き上がりのステーキが出来た時とほとんど同じレシピでした。
 
 ソースは、女房が好きな、ステーキから出た肉汁に醤油とバルサミコ酢とわずかのバターを加えて軽く煮詰めて作るソースにしました。さて、ステーキの出来上がりですが、どうもヒレ肉の厚さが、以前に成功した時のヒレ肉より若干薄かったようで、さらにまずいことに、オーブンを事前に170度まで加熱するのを忘れていたため(くだんの高級赤ワインのことで、心の落ち着きを失っていたのでしょう)、常温のオーブンにフライパンで熱して焦げ目を軽くつけたヒレ肉を入れて、それから170度にセットしてオーブンの加熱用のスイッチを入れ、肉の加熱を始めてしまったのです。
 
 案の定、肉はなかなか加熱されません。数分経っても、肉の切れ口は生肉のままでした。その時になって、初めて肉を入れる前にオーブンを170度の加熱しておかなければならなかったことを思い出し、「これはいかん」と、まずは急いでヒレ肉を取り出し、オーブンが170度になるまで5分ほど待ってから(この間に肉の中に少し熱が回ってしまっていたのでしょう)、またオーブンに入れて、レシピで指示された5分間しっかりと加熱しました。この手順の狂い(間違い)が決定的な原因となったのでしょう、なんと、高級なヒレ肉は、ミディアムレアならぬ、ウェルダンにかなり近い硬めの焼き上がりになってしまいました。
 
 実際に食してみると、やはり焼け過ぎの肉は美味しさ半減で、正価が10万円の高級ワインを楽しむための料理の役割を全く果たしてくれませんでした。わが女房には、今日のステーキはいつもと比べて美味しくないとはっきりと言われ、その日は、高級ワインと値の張る牛のヒレ肉に関わる2つの過ちとその原因となった己の粗忽さに大いに反省を強いられた日でありました。
 
 さて、過ちその間違えてコルク栓を開けてしまった正価で10万円の高級ワインの味はどうだったでしょうか。僕は、ワイン通ではありません。赤ワイン用のブドウの品種で知っているのは、カルベネ・ソーヴィニヨン、ピノ・ノワール、メルロぐらいのもので、フランスワインの産地についてはVin de France(地理的表示なし)、I.G.P.(地理的表示1)、A.O.P.(地理的表示2)でこの順に生産地域が狭くなり、それに連動して高くなること、また原産地についてのAppellation ○○○(生産地) Controlee表示、Vin de Pays(地酒の表示)、Vin de Table(テーブルワインの表示)が義務付けられていること、若干の高級ワインのシャトーの名前(ロマネ・コンテイ、ラフィット・ロートシルト、ムートン・ロートシルト、ラトゥール、ペトリュスなど)に過ぎません。
 
 クリスマスイブをはじめ2月に1度ぐらいは、ワインセラーから入手後の日の浅い5,000円ほどの赤ワイン(アマゾンでは3,500円)を1本開けて、休日の洋風料理の夕食の時などに女房とちょっと高級なワイングラスで飲むのですが、いつもの寝酒などに飲むワインは、セブンイレブンなどで550円ぐらいで売っている「アルパカ」と言うチリワインで、結構フルーティで灰汁も比較的少なく飲みやすいワインです。確かに安いワインだけあって、味に深みと言うか落ち着きのようなものは感じられません。でも、ビールを飲んだ後で、もう少しアルコールを補充したいときには重宝なワインです。
 
 5,000円のワインになると、確かに灰汁(多分タンニンの渋みが主な原因でしょう)が減り、少し透明感のある奥行きが感じられるようなワインが多くなるようですが、僕には、この5,000円のワインと20,000円のワインとの差は感じられません。5,000円の物より4倍も高くなった分、何か美味しくなった部分があるんじゃないだろうかと言った程度の感想です。さあ、今回間違えてコルク栓を開けてしまい、泣く泣く飲んだ10万円のシャトー・マルゴーの高級ワインの味はどうだったでしょうか。結論を言いますと、よく分かりませんでした。確かに、5,000円クラスのワインと比べると格段に灰汁が無くなっており、落ち着いた感じの味の深みも強くなっているような気がしましたが、正直言って、何故このワインに10万円の値が付くのかは良く分かりませんでした。
 
 僕はワイン通ではないので、偉そうなことは言いません。僕には高級ワインと中級ワインの味の確固たる見分けは出来ないけれど、ソムリエの方やセレブで毎日のようにロマネ・コンテイのような超高級ワインを味わっている人たちには、そうした微妙でありつつも根源的な味の違いは良く見極めることが出来るのでしょう。
 
 ところで、ロマネ・コンティの畑の広さはわずか1.8ヘクタールだそうで、東南東に向いた日当りの良い場所にあり、複雑な地層をもつ土壌の上部は石灰質でやせているため、ブドウの根は地中深くまで伸び、地中のミネラルや多様な要素を吸収することができるそうです。それに加え、多分、適度な降雨量、風当たり、朝晩の気温差などの諸条件が重なり、ロマネ・コンティの畑は、立地、土壌共にブドウ栽培において最適な条件を満たした傑出したブドウ畑なのだそうです。ロマネコンティはすごく高いもので1瓶1000万円、多くの場合1瓶200万円を超えるのですが、とても狭いぶどう畑の話を聴くと、それもなるほどと頷けます。ネットで調べたら、25万円と比較的お買い得なロマネコンティもありましたが、この位の値段のロマネコンティだと、僕が飲んでよく分からなかったシャトーマルゴーの10万円のワインの二の舞になるかも知れません。