湖岸でも海岸でもたまにウナギが釣れますが(海で釣れるウナギは海ウナギと言って川や湖で釣れるものより格段に美味しいそうです)、持って帰るかどうかは考え物です。釣り針が口元に掛かっている時は、逃がしてあげることにしています。何故なら、ウナギは蒲焼にするのですが、その調理にはかなり高度な技術を要し、特に二枚におろすのが非常に難しいのです。その後、中骨の下に刃先を入れて中骨を外していくのですが、これがまた難しい作業で、結構、熟練した技術を要します。
当然、プロではないので専用の包丁などは持っておらず、小出刃で捌いていくのですが、生かしたままで目釘を打って包丁を入れてスーッと中骨に沿って刃を進めて身を切っていくなどと言う高等技術は使えません。家に持って帰ったウナギは、氷を入れた容器にとぐろを巻いた形で入れて、冷蔵庫に一晩入れておきますが、料理を始めるときには丸まった形で死後硬直しています。
さあ、この丸まったぬめぬめの魚体を真っすぐに伸ばしてから、大きい俎板の上に置き(長さが80センチの大物だと尻尾の方は俎板から30センチぐらい外れています)、目釘を打ち、鰓の後ろ辺り背びれの方からから包丁を入れて中骨に沿って腹の方は切らないよう注意にして身を二枚に切り離していくのですが、ウナギは肉が堅く、さらに皮も厚くて硬くてぬめぬめするので、切り口はガタガタになってしまい、下手をすると中骨の下に刃先が入ってしまうこともあり、こうなるとその部分から切り込みを入れ直して刃を進めて行かねばならず、さらに俎板から外れた尻尾の方は別の俎板を継ぎ足して刃を進めていくのですが、大方満足のいくような二枚おろしが出来ることは10回に1回ぐらいしかありません。
二枚におろし終えると、頭と中骨は水に酒を加えてから煮立て、灰汁などを取り除いてから、煮詰まってややトロミがついたころに、砂糖と醤油で甘辛く味付けし、最後は味醂を加えてトロミと照りを付けて、蒲焼のタレの出来上がりです。決して、だしの素なんかを入れてはいけません。
身の方は、本当は竹串を刺していくのですが、家ではステンレス製の串を刺していきます。身の真ん中を刺し抜かないといけないのですが、これがまた難しい技術を要します。まあ、何とか串打ちを終えて、一度、関東風に身を蒸し上げます。それからガスコンロに下が鉄板製(ガスの火炎が、直接、身に当たらないためです)の焼き魚用の網の上で串に刺した身の方から焼き、身と皮を何回かひっくり返して焼き、やや焼き目が出てきたころから、刷毛でタレを塗っては焼き、タレを塗っては焼くこと10回以上繰り返して、やっと蒲焼の完成です。
60センチクラスのウナギだと、所謂、普通の蒲焼になるのですが、それより小さいウナギだと、非常に貧相な蒲焼もどきになってしまいます。どんぶりに入れた熱々のご飯の上にタレを少し掛け回しておいてから、焼き上がった蒲焼を乗せて、山椒の粉などをかけて食すと、うーん、これはこれで、結構、美味しいウナ丼になってくれます。
そんな訳で、ウナギは調理が非常に面倒なので、釣れてもあまり嬉しいとは感じません。今から20年以上も前のことでしょうか、いつもセイゴを釣りに行っている釣り場で、置き竿で1メートルに近いウナギを釣り上げたことがあるのですが、その時は60センチクラスのスズキが釣れていたこともあって、湖岸の手長エビを小網で掬いに来ていたおじさんに上げてしまいました。
そのおじさんはとても喜んで、「わー、すごいウナギだがね。有難うね。」とお礼は言ってくれたものの、そのおじさんが獲って篭に入れてあった手長エビの一部を、そのウナギへの返礼として僕に渡して呉れることはありませんでした。「手長エビを30匹ぐらい呉れたら、この大物のウナギを上げる。」とでも交換条件を呈示して置くべきだったと、今でも反省しています。天然物の1メートルクラスのウナギだと、蒲焼屋さんに持っていけば、数千円で引き取ってくれるはずです。勿体ないことをしましたが、それにしても蒲焼を作るのは非常に気が進まないので、まあ結局のところは、それはそれで良かったのかも知れないなどとも思っています。