僕は、軽い高脂血症の経過観察のこともあって、大学附属病院で年2回血液検査を行っています。僕の場合は、前腕の肘窩(ひじの内側)にある肘正中静脈が太く浮き出ているので、採血はいつも簡単に済むのですが、太った患者さんや高齢の患者さんでは、その血管が見つけにくいことがあり、採血に携わる看護師さんや臨床検査技師さんは、神経損傷が起こらないように注意しながら、採血針を穿刺するための血管を探し回るのですが、どうにもならなくなると、手の甲の静脈から採血する場合もありますが、神経損傷のリスクが大きくなり、血管が細く蛇行しているため採血がしにくいのです。そして、その患者さんのために10分以上も時間がかかってしまいます。

 

 僕が通っている大学病院の検査室でも、たまに、非常に採血の難しいタイプの患者さんが来られて、なかなか上手く行かなくて、難渋しているようなことが有ります。大方は、かなりの時間をかけて何とか採血に辿り着くのですが、上手な人に替わってもらっても、どうしても上手く行かない場合もあります。

 

 このように、現場では全くお手上げになってしまうと、そこで伝家の宝刀の出番になります。僕がかかっている大学病院の臨床検査部の中の血液酵素活性の測定かなんかの作業室の方に、採血の超名人が居られるのです。その血液関係の検査係の女性の人は、いつもは臨床検査の実地の作業をされているのですが、天分と言うのでしょうか、非常に採血が上手な方なのです。我が大学病院では医師を含めても、この方が採血が最も上手な方だと思います。

 

 現場から、その採血の名人の方に電話要請をしてから、2,3分もすると、検査部の仕事場の方から、その方が検査室の採血の場所にゆっくりとした足取りでやって来られます。そして、問題の患者さんの採血を始めるのですが、いつも、作業に取り掛かってから30秒もしないうちに、事も無げに肘正中静脈からの採血を済まされるのです。この時ばかりは、その検査部の方の採血の技術を学ぼうと、数人の人がその人の採血を見守ります。そして、採血を済ませたその検査部の方は、ゆっくりとした足取りで、自分の持ち場の検査室に戻って行かれるのです。

 

 余程の名人芸なのですが、多分、彼女は特別手当はもらっては居ないでしょう。月に数回のお出ましには、周りの関係者の皆さんの熱い敬意の視線が注がれるけれど、基本的には無償の形で、彼女の貴重な技術が披露されると言うことになるわけです。