面白かった話 (2)「交通違反始末記」
僕は、一度だけスピード違反で罰金5,000円を払わされ、交通違反者向けの講習会を受けさせられたことがあります。その後は安全運転を心がけ、35年間ほどゴールド免許証です。今回の面白かった話は、その交通違反者向けの講習会でのことでした。その講習会の講師は元交通警察官だった方で、話し方が上手で、話の内容も説得力があり、罰金5,000円ではお釣りがくるほどの内容の濃い実用的なお話でした。その講師の先生は、いろいろな実例を挙げて、車の運転では何処までの注意義務が必要なのかを事細かく話してくれました。
僕の隣の席に座っていた50歳ぐらいの人は、交通安全週間の時に、警官1人と自治会の交通安全委員会の委員の人達が見張っている最中に、右折禁止の標識を見落して無理に右折してしまい、現行犯で交通違反切符を切られて、結構な額の罰金を収めさせられて、その講習会にやって来たとのことでした。「いやぁ、交差点で気が急くとどうしても交通標識を見逃すことがあるけど、僕はこれでもいろいろな交通違反をしていて、そのたびに検問なんかに引っ掛かり、あるいは現行犯で、今までかなりの額の罰金を国にお支払いしているんだけれど、この癖はなかなか治らないね。交通違反者向けの講習会はいつも同じような内容の話ばかりでかなり飽きてきている。」と言っていました。
そのおじさんは、野次馬根性が旺盛だそうで、或る状況や景色を見て頭に?が三つほど点ると、どうしてもその状況を詳しく見てみたくなり、実行に移してしまうとのことでした。そのおじさんは、特に交通違反で道路際に停車させられている車を見かけると、どうしてもどう言う理由で捕まったのかが知りたくなって、交通違反の車と、その前に停車しているパトカーの前にわざわざいったん停車して、バックミラーで警官の前でペコペコ頭を下げている運転手の姿を見るのが好きなのだそうです。大方は1分ぐらいで様子が掴めるので、また車道に戻り目的地に向かうのですが、何回かに1回は、警察官がおじさんの車に近寄って来て「あんたね、此処は駐停車禁止だよ。早く行きなさい。」などと叱られるそうです。それでもこの癖は未だに直っていないとのことでした。
さて、その日の講習会での講師の先生の話は実例と交通法規との関係がとても詳しく語られていて、1時間半の講習も飽きることはありませんでした。その講師の先生のお話しになった実例の中には、交通ルールと言うか倫理的な面から見て、非常に良くない行動で、違反者の人格が大いに疑われるようなものもありました。そう言うタイプの実例が数件ほど紹介されましたが、まあ、そう言うタイプの加害者は被害者の人にかなりの損害をもたらすことが多いので、必然的に科される罰が重くなります。業務上過失致死罪などが適用されると、禁固2年などと言うかなり重い罰が科されることになります。過失による事故の状況や加害者のその後の態度如何では、実刑を科されるとのことでした。
隣に座っていた交通違反の常習者の件(くだん)のおじさんは、法律的な説明になると少しうつらうつらしている風でしたが、事故の実例やその加害者に下された判決の所になると、目をパチクリと開けて、とても真面目に聴いていました。特に加害者側に問題行動がある話では、そのおじさんは「うん。うん。」と頷きながら話を聴き、「それはいかん。そう言う輩がいるから、いつまでも交通事故は無くならないんだ。許せん。」と心底起こっている様子でした。でも、よく考えてみると、そのおじさんは、運転ルールをちゃんと守らなかったので、いま、遠くから交通違反者向けの講習会にやって来ているのではないでしたかね。交通事故を起こした他人のことを「許さん。」とまで言い切るのは如何なものかと僕は隣で聞いていて思いました。「これが人間と言うものの性なんだろうな。」とくすっと笑える情景でした。
でも、その講習会の講師の先生は、どう言う注意義務を怠ると、どう言う罰を受けることになるのかを、いろいろな実例を基に話してくれたので、とても為になる有意義なお話でした。きっと、僕の隣で盛んに頷きながら聴いていた件(くだん)の交通違反常習者のおじさんもこの頃は少しは反省して態度を改め、たまには、注意義務を怠らぬような模範運転をしているのでしょうか。