朝ドラ「カーネーション」

 

 「カーネーション」は、岸和田の呉服商の娘 小原糸子(尾野真千子) が洋裁に魅せられ、父の反対を押し切って洋装店を開き、戦争で夫を失いながらも 三人の娘(優子・直子・聡子)を育て上げ、世界的デザイナーへと導く一代記 です。 実在のデザイナー・小篠綾子さんをモデルにした物語で、糸子の約80年の人生を描いたドラマです。主人公を演じた尾野真千子の演技が秀逸で、男勝りの洋裁の才能と情熱豊かな女性の戦前、戦中、戦後の生きざまを描いています。脚本は渡辺あやさん、演出は田中健二さんほか複数名の方たちです。

 

 因みに、実在モデルの小篠綾子さんは、かの有名なデザイナーのコシノ三姉妹(コシノヒロコ・コシノジュンコ・コシノミチコさん)の母親です。

 

 このドラマの中で、糸子が育てる三姉妹は、実在の「コシノ三姉妹」(コシノヒロコ・コシノジュンコ・コシノミチコさん)をモデルにしたキャラクターです。小原優子(新山千春) は物静かな真面目な勉強家タイプの長女です。小原直子(川崎亜沙美)は 芸術肌で奔放な次女。小原聡子(二宮 星)は高校まではソフトボールで全国レベルで活躍したが、その後は洋裁に転向して、海外へ渡り活躍してる三女です。三人とものちに世界的デザイナーになり、活躍を続けています。

 

 このドラマは、1年くらい前に全編を再放送していたので、毎回録画しながら観ていました。そのうち、特に面白かった50話分は、ブルーレイのハードディスクに残してあります。いま見てもつい笑ってしまう名シーンは次のようなものでした。

 

 戦後間もない頃、主人公糸子は美容師をやっている親友の吉田奈津(栗山千明)から、「もう耐えられへんさかい、髪結い屋やめて、子を連れて実家に帰るわ。」と告白されます。大事な息子(奈津の夫)が戦死したことで、神経衰弱になってしまった姑の吉田照代(濱田マリ)から「あんたが嫁に来てから、息子二人が戦死してしもたんやで。あんた、死神やで。」と詰ら寄られて精神的に追い詰められていたのでした。

 

 糸子はその話を聞き、「実家に帰ったらあかん。おばちゃん、どないなるねん。」と奈津が離縁するのに大反対します。そこで、糸子は奈津に元の元気を取り戻すのが一番だと考えます。奈津が一番大事にしている美容の仕事への奈津の情熱を掻き立てようと考え、近所の糸子の後見人のおいちゃんに頼んで、中古のパーマネント機が何処かに残っているのかを調べてもらいます。戦争中に金属の拠出運動があったため、ミシンはなかなか見つからなかったのですが、奇跡的一台の中古ミシンが東京で見つかりました。

 

 そこで糸子は、奈津と一緒に行きつけの珈琲屋に出かけ、そこで奈津に、「東京に行って中古のミシンを買うて帰り、美容室を始めよな。」と持ち掛けます。金は糸子が利子なしで課して上げると言うのです。奈津は、「もう実家に帰ることを決めたんや。せやから、もうええねん。」とごねるのですが、糸子は、「パーマネント機やでぇー。」、「吉田美容室でぇー。」、「東京やでぇー。」と奈津の心を誘い、奈津は1時間ほど逡巡し続けた後、糸子の誘いに乗って、と糸子とおいちゃんと一緒に東京に行くことになるのでした。

 

 この時の、尾野真千子の演技はまさに秀逸で、元々敬語の無い岸和田弁のちょっと乱暴にも聞こえる独特な口調の中にある優しく人の心を押してくれる温かみを十分に感じさせるものでした。

 

 もう一つ面白いシーンを紹介しておきます。或る日突然、東京で洋裁や店の経営方法の修業を重ねてから岸和田に帰り、糸子の店の小原洋装店でデザイナーとして働いていた長女の優子が、糸子が後を継がせようとしていた小原洋装店は継がずに、大阪の心斎橋にあるビルの一角に自分の洋装店を作り、そこで独立して洋裁の仕事を伸ばして行きたいと、糸子に告げるのでした。すったもんだした挙句、糸子は「分かったぁ。もう分かった。好きにしいーっ。やるんやったら、それに集中しいーっ。」と言って、優子の独立を認めるのでした。優子は、涙を浮かべながら、糸子に詫びつつ家を出て行くのでした。

 

 ところが、数日後のシーンに画面が変わると、優子が糸子の店に戻って来て、泣きながら、「お母ちゃん、大工さんな、店の改修してくれてるんはええねんけど、仕事おそいし、やる言うた約束まったく守ってくれへんのやしーっ。」と糸子に泣きつくのでした。糸子は、「へっ、えらそうなこと言うてたくせに…ほんま、この娘、なんでこない独立心あらへんねん。」と心の中で考えつつも、優子と一緒に心斎橋の改装工事中の店に出かけて行って、優子の代わりに仕事の態度の悪い大工と掛け合うのでした。

 

 大工が、「そこまでの約束はしてへんで。出来へんもんは出来へんねん。」と言ってきましたが、糸子は、大工に顔を近づけて、「出来へんて、そらちゃうやろー。いっぺん引き受けたもんは、最後までちゃんとやらんかい。」と大声で言い返し、優子が不要なダクトを撤去して欲しいといくら頼んでも、言うことを聞いてくれなかった大工に、渋々ながらそのダクトを取り外させるのでした。そして、糸子は大工に向かって、「ほな、またちょくちょく顔出しに来るよって、宜しう頼んまっせ。」と言って、工事中の優子の店を後にするのでした。このシーンの尾野真千子の演技は、岸和田人の器量と気風をものの見事に表現したものでした。

 

 この「カーネーション」と言う作品は、僕には、朝ドラの中では一番面白い作品でした。世間様では、「おしん」が一番だと言う評判で、東南アジアでも皆が「おしん」の大ファンなのですが、全体を通じての話の面白さでは、「カーネーション」が一枚上手なような気がします。「カーネーション」は実在の小篠綾子さんをモデルにして脚本が書き上げられたドラマであり、事実と言うものの重みが利いているからなのだと思います。

 

 因みに、ドラマ「おしん」も、丸山静江さんや和田カツさんがモデルと噂されていましたが、作者の橋田壽賀子さんは特定の実在のモデルは居ないと言っています。しかし、丸山静江さんの手紙が「おしん」と言うドラマの創作の出発点となり、和田カツさんの人生の一部が参考にされたことは確かな事実のようです。