NHKにしてはとても面白かったドラマの話

 

 皆さんの中で、2019年の8月13日から15日にNHKで3夜連続で放映された「ピュア! 一日アイドル署長の事件簿 (第1話~3話)」と言うドラマを観た人はいますでしょうか。機会があったら、この非常に面白い推理もののドラマを一度観てやって下さい。もしかするとYoutubeに出ているかも知れません。

 

  此の推理ドラマは、原作は藤田光治、演出は藤原知之で、主役は浜辺美波、東出昌大が演じていますが、脇役には長村航希や六角精児などの芸達者が出演しています。当時のNHKの番組サイトで紹介されていた記事を引用しますが、このドラマは、「かわいいアイドルがコミカルに表と裏の顔を使い分け、警察の捜査を手玉に取りながら難事件に挑みます。

 

 犯人が仕掛けたトリックを、視聴者とともに解き明かしていく本格ミステリーの味わいも楽しめる、新感覚の推理エンターテインメント」と言う触れ込みで、その推理ドラマの内容は、3篇を通じて、主人公はなかなか売れない、ちょっと腹黒いアイドル・黒薔薇純子(浜辺美波:いまは豊臣秀長の大河ドラマで秀吉の奥さんのねね役をしています)。交通安全や防犯啓発のため、「一日署長」として赴いた警察署で、なぜか、いつも殺人事件に遭遇します。

 

 そこへ必ず現れる天敵・警視庁捜査一課の東堂刑事(東出昌大)からは邪険に扱われながらも、黒薔薇純子は事件に首を突っ込んでいくことになります。そしてなぜか、この凸凹コンビの二人がたった「一日」で難事件を解決してしまうという痛快推理ドラマです。特に二流アイドルを自認している黒薔薇純子の推理力が光る筋立てになっています。

 

 3話とも、黒薔薇純子のちょっとした企みに引っ掛ってしまった東堂刑事が、「その日だけ黒薔薇純子が東堂刑事の一日署長になる。」と言う約束を否応もなくさせられて、この二人のコンビによる殺人犯探しが始まります。3話とも、少し弱すぎる動機で殺人事件が起きてしまうと言う難点が目につきますが、この点は、テレビで放映される推理ドラマとしては、まあ大目に見てやっても良いかも知れません。

 

 このドラマは、推理ものとしてはその論理展開はかなりしっかりとしたもので、犯行時間との関係での真犯人のアリバイ崩しが中心的なモチーフとなって話が進んで行きます。所々に、推理小説やドラマなどではなるべく避けないといけない「偶然性に頼った部分」もあるのですが、推理の展開としては合格点です。

 

 かの有名な松本清張の推理小説「点と線」でも、話の冒頭で、当時の国鉄のダイヤ編成の関係で、正午ごろに東京駅の電車の十数本のホームの端から端が全て見通せる時間帯があったそうですが、その30秒ほどの短い時間帯に、登場人物の一人が東京駅の一番端のホームに居合わせた場面が描かれており、これが真犯人のアリバイ崩しの決定的な証拠になって行くのですが、この場面はまさに、本来ならあり得ない「偶然性」に頼り切っています。

 「点と線」についての多くの書評には、必ずこの「偶然性」に依拠した場面設定の不自然さが指摘されています。そんなこともあるので、「ピュア! 一日アイドル署長の事件簿」の話の中に出てくる「偶然性」は、まあ許される程度のものだと思います。

 

 このドラマの見所は、何と言っても二人の主人公の演技の旨さです。アイドル黒薔薇純子は、他人を自分の仕組んだ企み(そんなに陰湿なものではありません)に陥れ自分が優位に立った時には、必ず「へっ、へっ」と言うのですが、この演技が非常に上手です。大袈裟すぎず、自然体とも言える「へっ、へっ」なのです。

 そして、黒薔薇純子の企みによって首根っこを押さえられ、その日1日中、黒薔薇純子の部下をさせられる羽目になった東堂刑事に、時に乱暴な言葉づかいで、指示を与え、時に捜査方法の不備などを指摘したりしますが、その後ですぐに丁寧な言葉遣いに戻ったりするので、視聴者のくすっという微笑(わらい)は誘っても、決して嫌味にはなりません。浜辺美波はこの辺の演技がとても旨いのです。

 

 加えて、それを受け止める側の東堂刑事のレスポンスも自然体で、微笑ましいとも言える場面が随所に散りばめられています。東堂刑事の折に触れてのいろいろな仕草や心の動きが、東出昌大のきめ細やかとも言える演技で表現されており、観ている者のくすっと言う微笑を誘います。 

 事あるごとに、値段の高そうなコートを大袈裟に振り回す演技も、東堂刑事のある面自分が一番と言う考え方や若干の恰好付けの好きな性格をコミカルに表現しています。東出昌大も、なかなか演技達者になったものだと感心したものです。