白昼に幽霊を見た

 

 これは紛れもない実話である。五月ごろの良く晴れた日の午後3時ごろ、僕は自宅から西側に休耕地を挟んで150メートルの道路沿いにある行きつけのカフェで、珈琲を飲んでいた。ガラス窓から自宅が斜め左側に見えていた。

 

 僕の自宅は南北方向の幅が5メートルの道路に面しているが、その道路の西側にはガードレールがあり、そこから3メートルぐらい下を幅が2メートルの側溝が流れている。その側溝の西側に休耕地が広がっているのだが、側溝に面してコンクリート製の幅が50センチで50メートルぐらいの長さのあぜ道があった。そのあぜ道は側溝の水面から1メートルほど高い位置にあって、僕の自宅の前を通る道路よりも2メートルぐらい低い所を通っている。

 

 カフェで、注文したホットコーヒーを半分ほど飲んだ時であった。ボヤっと窓の外を見ていたのだが、その休耕田の側溝に沿ったあぜ道の上を北に向かって歩いている中年女性の姿に気が付いた。あぜ道の中ほどをゆっくりと歩ていた。その女性が、手に買い物かごを持っていたかどうかは覚えていない。「何で、あの女の人は、側溝の手前の休耕田のあぜ道なんか歩いているんだろうか。」と少し不思議に思って、その情景を眺めていた。

 

 そして、僕がコーヒーを飲もうとして2秒ほど目を逸らした間に、その女性は忽然と姿を消していた。カフェの西側の窓の外の風景が、こちらの窓ガラスに映っているのかなと、西側の窓の外の風景に目をやったが、道路を行き交う車は見えたが、その女性の姿は見えなかった。その女性の姿が、あまりにも突然に消えてしまったので、僕は少し気持ち悪くなって、残りのコーヒーを飲み干して、カフェを出て、カフェの前の東西方向から南北方向に半弧を描いて回っている広い道の歩道を歩いて、休耕田の東南の角で、僕の自宅前を通る道路へ左折して家に戻った。その間、きょろきょろと周りを見回してみたが、その女性の姿は目に入らなかった。

 

 僕は、薄気味悪い感じがしたので、日本酒を小さなコップに入れて、その女性が見えたあたりのガードレールから、お払いのためにお酒を撒いたのであった。その後、25年ぐらい経つが、毎年2回実施している町内会の件(くだん)の側溝のどぶさらいの作業中に、みなで側溝に下りて行って川底のヘドロをスコップで、件(くだん)のあぜ道の上に掬い上げたりしているが、そうした不思議なことが起こったことは一度も無い。

 

 と言うことで、この何となく怪しい話は終わりであるが、幽霊がもし居たとしても。深夜の人のいない心霊スポットに出没するのではなく、幽霊は白昼堂々と通りを歩く人々に混じって姿を現しているのではないかと思う。そして、あなたの前を歩いている幽霊は、次の角で左に曲がるが、その途端その姿は消え失せてしまう。しかし、あなたはそのことに気付かずに、その路地の角を通り過ぎて行くと言うようなことも、しばしば起こっているのではなかろうか。

 

 オカルトから離れて考えてみると、その幽霊の姿は、全く別の所に居る普通の生きた人間の姿のホログラフィーなんてこともあり得る。何たって、アインシュタインが理論的に発見した「量子もつれ」という現象が存在することが証明されていて、その功績に対してノーベル賞も出ているが、「量子もつれ」から「テレポーション」と言う現象が引き起こされるんだし、超弦理論を発展させると、3次元のこの世界は、2次元の世界が投影されたホログラフィーなんだと言う説も導かれて来るそうだから、そう言う物理現象の裏に幽霊と言うものが潜んでいても別に不思議はないだろう。