何日か前のブログで

万有引力の法則を使った告白方法について書いた。

(ごめんね、ニュートン)

 

書いていて思い出した話がある。

5年くらい前の出来事。後輩A君との会話である。

僕が40代前半。A君は30代前半。

A君は根はすごく良い奴なんだけど、ちょっとばかり女性にだらしないところがあり

まあ、俗っぽく言うと“ヤりたがり”。

それが原因かどうか分からないけど彼女とぜんぜん長続きしない。

「それって、彼女といえるんかい?」みたいな期間でコロコロ相手が変わるのだ。

「お前さあ…誠実になれとは言わないけど、もっと相手のこと考えて付き合えよ」と注意はするものの治る気配がない。

 

あの時も、A君が失恋した直後。

いっちょ前に落ち込むA君と居酒屋で飲んでいた。

またいつものように別れ話を始めた彼の会話を止めて

 

「ねえ、お前さ…ホントに悲しんでるの?」

「…悲しいですよ!」

「じゃあさ、別れない努力ってしてんの?」

「努力もなんも、フラれちゃうんだからしょうがないじゃないっすか」

「そっか」

 

僕は空になりかけたビールグラスを手に取ってA君の前に置いた。

 

「問題です。これはなんでしょうか?」

「…コップです」

「見えてるな。なんでコップってわかったの?」

「は?なんでって…」

「お前、目の構造って知ってる?」

「角膜とかそういう話ですか?」

「そうそう。これを『グラス』って判断したのは目じゃなくてお前の脳みそ。目は光を感じてるだけ。(店の)電灯の光がグラスに当たって反射してお前の目に届く。その光が視神経を通って脳みそに届く。脳みそはその光を解析して像にして『グラス!!』って判断したんだよ」

 

ちなみに書いておきますが、こんな理路整然に話してません。お酒の席ですのでかなりグダグダな会話でしたが、現在の僕が編集して会話化しておりますので(苦笑

 

理解したのかしてないのか分からない後輩に

「じゃあ次の問題は日光について」

「日光って群馬のですか?」

「そっちじゃなくて太陽の光のほう…っていうか日光って栃木だぞ」

 

この後、いろは坂でサルに襲撃された話が10分くらい挟まれて

やっと太陽の話に戻ります。

こいつらヤバいからね、ホントに

 

「太陽と地球の距離は1億5000万km。光速(光の進むスピード)は1秒に30万km。じゃあ、太陽から放たれた光が地球に届く時間は何秒だい?」

「…分からないっす」

「割ればいいだけじゃんか!割れ、早く!!」

 

おぼつかない手で計算機を叩く…150000000÷300000…

 

「500です…」

「500秒ってことは…えっと、8分20秒か。つまり俺らが見てる太陽光は約8分前の光ってことだ」

「え?…あぁ、そうですね」

「(大丈夫か?)つまり、たった今、太陽が爆発して消滅したとしても8分間は明るいってことだ」

「…え?」

「だからさ、8分間かけて光が届くんだから、爆発直前の光は爆発直後の8分後に届くじゃんか」

「あぁ…まあ、そうですね」

「逆に言うと、俺らは常に8分前の太陽を見てるってことだな」

 

…ここまでで1時間くらいかかってる。

文字におこすと短いが、途中で注文していた『鶏刺し』の美味しさに2人で感動したり

おしぼりでブラジャーを作って遊んだりしている。

 

目をつぶって作れるようになれば本物だ

 

「で、ここから本題…」

「まだ、あるんすか?」

「こっからが重要なんだよ…例えば、お前と彼女がデートするだろ。散歩でもいいや。その時のお前と彼女の物理的な距離はどれくらいだ?」

「…横に並んだとして…20~30cmくらいですかね」

「じゃあ、30cmだとして、30cmを㎞に換算して光速で割ってみなよ」

「えー、また計算するんですか…㎝からkmってどうすんですか?…」

 

自分で言っておいてなんだけど、とてもメンドクサイ。

ビールのせいで頭が濁っている。えっと、1mが100cmだから…

 

「100000で割ればいいんだから、30cmは0.0003kmだな。それを光速で割ると…」

 

計算機をカチャカチャやって、とんでもない数値が出てきた。

 

「えっと…0.000000001だな。これがどういう意味か分かる?」

「いえ、まったく分からないっす」

「つまりだな、デート中、お前は0.000000001秒前の彼女を見てるってことだ」

「意味がわかんないです…」

「彼女に光が当たって反射してからお前の目に届くまでに0.000000001秒かかってるんだよ。

てことは、お前は常に0.000000001秒前の彼女を見てるってことだな」

「…まあ、そうですけど」

「つまりリアルタイムの彼女と会ってないということだ」

「え?」

 

変な理屈だと思うけども、事実と反してる事も言ってない。

目に見えている彼女は本物じゃなくて…『本物じゃない』っていうのはちょっと違う。

彼女側から見ると

彼女自身が「私はこういう人」って思っている自分とはちょっと違う自分を

相手である彼(A君)は見ているということが言いたかった。

 

「じゃあ、リアルタイムの彼女を見るためにはどうしたらいいと思う?」

「…」

「距離を縮めるしかないじゃんか。20cm…10cm…5cm…1cm…0!!合体っ!!」

「…(苦笑」

「ピタっとくっついちゃえば距離はゼロ。リアルタイムの彼女を見ることができるじゃんか」

 

A君はどこまでこの話を理解してるだろうか。

適当に話し出したけどなかなか核心部分を突いてると思うんだけど。

 

「合体…つまり、“ヤる”…えっと、“する”っていう行為は全然悪いことじゃない。むしろ、自然なことだよ」

 

(さて、どうやって纏めようかなあ…)

 

おしぼりブラジャーを分解して元に戻し、テーブルについたグラス跡を拭きながら

頭を整理する。

 

「だけどさ、人には心っていうのがあってさ。心臓なのか脳みそなのか、身体のどっか奥の方にあるんだよ。人間には皮膚とか肉とか骨とかあって、どんなに頑張ったってお前の彼女への接触は皮膚までが限界。絶対に彼女の心には触れない。常になん10cmかの距離がある」

「…」

「どうやったら相手の心に触れると思う?」

「…分かんないです」

「相手が身体の外に心を出すしかない。外に出てきてくれれば触れるだろ」

「…」

「心が外に出る。触っていいよって出してくれた。こういうのを『心を開く』って言うのかもね」

 

A君は自分のおしぼりブラジャーをさっきまで頭に乗せていた(ネコ耳のつもりらしい)けれど

それをテーブルに戻した。

 

 

「最後にさ。お前、彼女に心を開いてもらう努力をしたかい?」

「…分かんないです」

「ははははは…そだな、話が訳わかんないよな」

「いえ、そうじゃなくて…してたかどうかも分かんないですし、しようとしたとしても方法が分かんないです」

「そっか」

「○○さんは方法を知ってるんですか?」

「知るわけないじゃん」

「えええーー」

「そんな方法を知ってたら、誰も苦労しないよ」

 

テーブルを挟んで2人で笑った。

 

「でも、しようとはしないと。お前、そんくらいできるだろ?」

「…分かんないっす」

「そかそか、俺も分かんねーーーな」

 

という、とりとめのない話で2時間30分が終了しました。

 

一応、ご説明しておきますと

こんな頭の痛い話をその場で思いついたわけでなく

『見える』話と『8分前の太陽』話は高校生の時に理解したこと。

『彼女がちょっと前の彼女なんじゃね』という話は大学時代のゼミ中に議論したこと。

(確か、サルトルの『実存主義』の話からズレて展開したような)

その後の『心に触れる』話は社会人になってぼんやり考えてたこと。

ぼんやりしたまま時が流れてて、酒の席で思い出し、A君に話した。

A君に伝えながら、自分の頭を整理していたっていうのが正しいです。

説教なんてガラじゃない。

僕は自分のために話しておりました。

 

ちなみに

A君はあの3年後に結婚。退職して実家に戻り家業を継いでおりますよ。

ちゃんとやってるのかどうか知らんけど。