では、なぜあえてショート化したのか?

ここにシマノの特殊技術があります。

実はサンプルを大量に作ってもらった時に、1本だけ、ホントに1本だけしっくりくるロッドがありました。

どのサンプルも、長い、短いに関わらずショートロッドの最大のデメリットであるブレを抑えることができなかったのですが、中にあった1本だけがそれをクリアしていました。


実際のサンプルには今回発売のロッドよりも長いもの、短いものもテストしてますが、やはり、それを差し置いても良いサンプル、光るサンプルが1本だけありました。


実はテストの際、ワザと軽いエギを使うことによって強制的にブレを収束させることはせずに、ロッドそのものの収束率を確かめていました。
それ故、その差は歴然でした。
(重いエギを使うとラインが強く引っ張られて勝手にブレが収束してしまうのは分かりますよね。つまり、これはエギが重いとロッドの本当の性能が分かりにくいってことなんです。)

テストサンプルは図らずも事前情報なしで受け取っていたため、いったいこのロッドが何だったのか、なぜこのロッドだけが扱いやすいのか分かりませんでした。

ただ、何度試してもこのロッドだけがしっくりくる。

で、開発担当者にお電話です。

イカ先生 「なんか、このロッドだけ感じが違うんですけど」

担当 「ああ、そうですか。どんな感じでした」

イカ  「いい感じなんですよね~。なんていうか、収束感が全然違うんです。手に馴染むし、しゃくった時の手首に掛かる「ゴン」って感じもありませんし、非常にソフトにしゃくれるイメージです」

担当 「へぇ~、やっぱりそうですか。分かるもんですね。」

イカ  「分かるとは?」

担当 「いやね、実はこのロッドだけ違うんですよ。色々と。」

イカ 「嫌らしいですね~」

担当 「ははは。実はロッドを作る際に、先生と話をしていて同じことを感じていたんです。作る側としても釣りの形態からしてショートロッドのメリットは少ないと感じていました。それをクリアできる何かがないかなって思って、もしかしたらと言うことで作ったのがその1本だったんですよ」

イカ 「なるほど~。」


ショートロッドにあるこの「ブレ」は時として釣果に関係しないこともあります。

ありますが、使っていて気持ちよくないというこのストレスは極力減らしたいと言うのが皆さんの意見じゃないでしょうか。

いや、皆さんの意見と言うのは良くないですね。僕自身の意見です。
ストレスのある釣りを僕は極端に嫌います。

そもそもストレスがあると言うことは、改良の余地があると言う事なので、そこを放置して商品化するのは非常に忍びない訳です。

僕自身、ロッド開発に関わる際に最も大事にするのが「快適さ」、「楽しさ」であります。

使っていて楽しい、面白い、そして安心できる。

こんなロッドでなければ今の時代、受け入れてもらえないでしょう。

そんな意味からも、L,ML,Mとそれぞれにこのブレを収束させる意味は大きいのです。

例えば、610Lのようにシャローエリア用では軽いエギを使用します。

こうなると、エギが強く引っ張らないのでブレを強く感じてしまう。


結果、エギを重くすることになるわけですが、そうなると根掛かりが多くなってしまう。

結果、10mそこそこでは釣りそのものが成立しなくなってしまうわけです。

これじゃあシャロー用と謳う意味がありません。



じゃあ、重いエギを使用する607Mならどうか。

重いエギを使うのだから多少のブレはいいじゃないか。

となりますが、ここが落とし穴で、607Mを使用するシチュエーションと言えば当然ディープエリアになります。

ディープと言うことは、ロッドに掛かる負荷も強くなるのでしゃくる時の手首の負担は相当なものになります。

ここで、金属的な負荷が掛かるとかなりしんどいんですね。

硬いロッドは当然ながら手首を痛めます。

ちなみにここでいう金属的な負荷とはしゃくった時の感覚で、「ガン、ガン」と言ったもの。

手首に響く感じです。

一方で、607Mではこの感覚が「ズン、ズン」と言った感じになります。

非常に分かりにくいのですが、野球に例えてみましょう。

硬球を打つ時は手首に金属的な衝撃が伝わりますよね。
これが硬いロッドをしゃくった時の感覚。

これを同じバットで軟式のボールを打つと、驚くほど手首に伝わる感覚が柔らかくなりますよね。

この感覚の違いが607Mの特徴と言えます。


つまり、結局はロッドが柔らかかろうが、硬かろうが、こういった金属的な負荷は釣り手を不快にし、ストレス(精神的、肉体的)を与えてしまうものなのです。


続く