あるところに小さな星が誕生しました。
その星では雨が長く降り続き、それはやがて海になりました。
海の中ではたくさん不思議なことが起こります。
ある日突然、海の奥深くで生命が誕生しました。この星最初の住人です。
最初の住人は小さな小さな生き物でした。
しかし長い時を超え、生き物は大きく、そして複雑に進化していきました。
海は多種多様な住人たちで満たされるようになりました。
やがて彼らの一部が新天地を求めて陸に上がってきました。
陸に馴染むように進化を繰り返し、地上もまた多種多様な住人たちで満たされるようになりました。
そんな彼らの目標は、「自分たちの子孫を残す」ことでした。
他の種族を殺して食べることで生きている彼らにとって、他の住人は敵でした。
食うか食われるかの闘争です。
仲間同士にはなれなかったのです。
厳しい生存競争を繰り返すうちに、とある種族が現れました。
彼らは名前を恐竜と言いました。
恐竜の武器は、他の種族にない圧倒的なパワーと体格でした。
それを活用し、彼らは地上の覇権を握りました。
強すぎる恐竜の前に、敵などほとんどいなかったのです。
「自分たちの子孫を残す」という彼らの目標は、達成されたも同然でした。
それでは恐竜は今でも生き残っているのでしょうか?
いいえ、彼らはとうの昔に絶滅してしまいました。
ある日降ってきた隕石が海にぶつかって、その水しぶきが地球を覆ってしまったのです。
これがこの星に長く厳しい冬をもたらし、寒さに耐えられなかった恐竜たちは皆死んでしまいました。
恐竜たちの死後、かろうじて生き残った住人たちは気付きました。
圧倒的なパワーと体格では、彼らの目標は達成されないのだと。
しばらくして、この星に新たな住人が現れました。
彼らは名前を人間と言いました。
人間の武器は、他の種族にはない「知性」でした。
これはかの恐竜でさえ持っていなかった全く新しい武器でした。
パワーや体格では他の種族に見劣りする人間ですが、そんな弱点を彼らは知性で補いました。
彼らは知性によって様々な新しい発見をし、生活に取り入れました。
これらの発見を活用し、彼らは地上の覇権を握りました。
彼らの最大の発見は、「論理」でした。
そしてそれを共有、保存するための「言葉」や「文字」でした。
論理を使って考えることで、彼らはかつてこの星の住人が知らなかったことをたくさん知るようになりました。
そしてそれらを言葉として伝承し文字として継承することで、次の世代の暮らしを豊かにしていきました。
このシステムによって、人間はもはや進化とは比較にならないスピードで急速に成長していきました。
こうしてたやすく敵や災害から身を守れるようになった人間にとって、「自分たちの種族が生き残る」という目標は達成されたも同然でした。
それでは人間は今でも生き残っているのでしょうか?
いいえ、そうではありません。
どうして彼らは滅んでしまったのでしょうか。
彼らは最大の発見である「論理」を大切にしました。
だから、論理で説明できないことを嫌いました。
この星の住人は「子孫を残す」という目標を持っています。
人間にだって当然、この目標がありました。
しかし、彼らはどうしてこれを目指すのかを論理で説明できませんでした。
ある日人間は考えました。
どうして子孫を残さなければならないのだろうと。
彼らは他の種族と同じく、自分の子供を幸せにしたいという願いを持っていました。
しかし、子供が幸せになるかどうかは、彼らの知性では完全には予測できないことでした。
大切な子供が不幸せになってしまう可能性を背負うくらいなら、初めから子供なんていらないと彼らは考えました。
人間は論理によって「子孫を作らない」という結論を得ました。
それは彼らが本来持っていたはずの目標と矛盾しますが、それでも彼らは気にしませんでした。
だってその目標は論理で説明できないものだったのですから。
こうして人間は外敵に滅ぼされる訳でも災害に滅ぼされる訳でもなく、静かに衰えて死んでいきました。
彼らに覇権を握らせた「知性」という武器は、実は諸刃の剣だったのです。
人間は結局、そのことに最後まで気付きませんでした。
王を失ったこの星の住人は、次の覇権を巡って壮絶な争いを繰り返しました。
この争いの中で多くの種族が滅んでいきました。
こうしてこの星で最後の一匹同士の殺し合いが起き、勝者が決まりました。
しかし、生き物は他の種族を食べてこそ生きていけるのです。
ひとりぼっちになってしまった彼は間も無く息を引き取り、星には最初と同じ静寂が戻ってきました。
そこにはただ広大な海があるのみです。
さて、これでこの星には誰もいなくなってしまいました。
しかし本当にそうでしょうか?
よく見ると、海の奥深くで小さな小さな生命が芽吹いていました。
そう、海では不思議なことが起こるのです。
この小さな生物が進化を繰り返して再びこの星にたくさんの住人が現れるのは、また別のお話。