1週間は早いもので、今 再渡米の関空です。

コマーシャルライセンスに必要な飛行経験の一つにロングクロスカントリーがありまして 内容は、
「一番遠い目的地までの距離が250マイル以上、途中他の空港に2回以上着陸して、それぞれの空港までの距離の合計が300マイル以上」というものです。
(ちなみにここでいうマイルは「ノーティカルマイル=1.85km」のことで日本語で言う「海里」です。普通使うのは「スタチュートマイル=1.6km」です)
10月25日、これに行ってきました。

目的地はDAGGETという空港です。モハビ砂漠の中にあり、だいたいロサンゼルスとラスベガスの中間くらいのところです。
出発地点のREID HILLVIEWからの直線距離は約280マイルです。
今回使った機体はセスナ152、セスナの中でも一番小さいタイプです。

REIDを飛び立ちまずは南下、30分ほど飛んだあと内陸側の盆地に進路を移します。これは午前中の海岸線に霧やもやが発生しやすいためです。
そこから約30分のところのHARISという空港をチェックポイントとしました。
この日の風は結構強めの北風という予報でしたので、上手くその風に乗っていけば目的地のDAGGETまで給油ナシで行ける計算です。
で、チェックポイントのHARISまでの時間で予報の風と本当の風を比べて、予報通りの北風なら給油ナシ、風が弱かったらHARISで給油というためのチェックポイントでした。
結果、風は予報どおり。HARISには降りず直行でDAGGETに行く判断をしました。
HARISを過ぎて約1時間、山越えです。近くに2000mを越える山が連なっている山脈の比較的低いところを目掛け、2000mの高度で通過しました。
山を越えるとモハビ砂漠です。ここからが大変な旅になってくるのでした。

砂漠に入った途端、それまでと違って強烈な乱気流が待っていました。
一瞬たりとも水平に飛ぶことができないくらいです。
片方の翼だけが持ち上げられたり、落とされたり、急に高度が落ちたり上がったり、ひどいところではフルパワーで上昇してるはずにも関わらず高度計は下がっていくという下降気流もありました。
油断してると、どんどん進路がずれていきます。
この時飛んでいるコースというのは、エドワード空軍基地周辺の飛行禁止区域のすぐ近くです。基地も見えています。
このエリアに入ると大変なことになるはずなので できるだけ遠くを飛ぼうとしてるんですが、どうしてか基地の方に近づいて行きます。
友人に借りたGPSを見ながらなんとかヤバイ地域を越えることができました。

ここでふと思ったことがあります。
「もうすぐ目的のDAGGETだけど、着陸時に同じくらいの乱気流だったらどうしよう・・」
もうこの時点でそんなに多くの燃料は残っていませんので乱気流で着陸を断念せざるを得なかったとしても別の空港まで行くだけの燃料があるか微妙です。
それもそうだけれど、他の空港に行ったとしてもこの辺の空港はどこも乱気流なんじゃないかということも言えます。
これはもう、何回チャレンジしたとしてもDAGGETに降ろすしかないと決めました。

空港が見えてきました。
高度を落としていきますがまだまだ乱気流が続きます。
ちょうどトラフィックパターンに入った頃、地上から1000フィートの高さあたりでようやく気流が落ち着いてきました。
ファイナルアプローチの頃には横風はあるものの揺れるような風は吹いていませんでした。

無事着陸できました。
まずはガソリンスタンドまでタクシーしていきます。
緊張の余韻がずっと残っていました。

ここでゆっくりしてる時間はありませんので、燃料の補給と、トイレと、軽く食事(持参のドーナッツ)を済ませ、すぐにまた出発です。

飛び上がったら再び乱気流です。地上での穏やかな風がウソみたいです。

次の目的地は海岸近くのSANTA YNEZという空港です。
まずは砂漠を後戻り、ちょっと寄り道してSOUTHERN CALIFORNIA LOGISTICSという空港の上を通っていくことにしました。
少し離れたところにMOJAVEという空港があって、ここは「飛行機の墓場」という言われ方で有名なところですが、寄り道するSOUTHERN CALIFORNIA LOGISTICSも同じく飛行機が放置してあるところです。
上空から見ると旅客機くらいの飛行機がずらりと並べてあります。
もったいないけど全部ガラクタなんだなぁと思いながら通過。

さて、砂漠を後戻りして再び山越えです。
さっきまでとは違って海岸線に出て行きます。

海岸線に近づくにつれて段々ともやが出てきました。
ロサンゼルスの方角は完全に雲の中のように見えます。
私が向かう方角はまだまだ飛行には影響ないですが、遠くの方は霞んで見えにくい状態です。

ひどくなったらイヤだなぁと思いつつも、海岸線を通るのはしばらくの区間なので大丈夫とは思っていました。
海岸線に出た頃には もやは多くなかったですが下を見ると雲が結構いっぱいありました。
海辺の町SANTA BARBARA上空を通過し、また山を越えてすぐのところに次の目的地SANTA YNEZがあります。

SANTA YNEZでも給油、トイレを済ませ、すぐ飛び立ちました。
ここから先はずっと海の近くを北上していきます。強烈な向かい風が予測されます。

次の目的地はKING CITY、以前降り立ったことがある空港です。
KING CITYまでの間は予想通りの向かい風、そして 段々日が傾いてきました。

時間が気になりつつも順調に飛んでいたんですが、PASO ROBLESという空港に近づくにつれ もやが激しくなってきました。
無線でPASO ROBLESの空港の気象情報を聴くと、視界(視程といいます)1マイルと言っています。
この瞬間、「ちょっとヤバイんじゃないかい・・・」となる訳です。
私のようなVFRの機体は視程1マイルのところを飛んではいけないのです。無免許運転になります。
私のいる上空はまだ1マイルなんてひどくはなっていません、でも地上付近を見ると結構ひどい状況です。
どうやら、もやはある高さまでしかないみたいです(ヘイズトップといいます)。
KING CITYはこのPASO ROBLESの向こう側で同じように視程が悪そうです。

そこで思ったこと、「これ以上視程が悪化して地面が見えなくなったらまずい。高度を下げて地面に近づいたらもう少し視界が良くなるんじゃないだろうか」
で、高度を下げていきました。
すると、もやの中に入った途端(ヘイズトップから下へ降りた途端)周りがほとんど見えなくなりました。
地面と飛行場近くを飛ぶ飛行機のライトがかすかに見えるだけです。

これはマズイと思い、急いで上昇しました。
その次に思ったのは、「このヘイズから逃げるしかない、内陸側へ進路変更しなければ」
ということで、急遽KING CITYをあきらめ 海側と内陸を分ける山を越える方向に飛び始めました。
この時 大活躍したのが再び登場のGPSです。
行ったことのない場所で急遽進路変更なんて行為は普通やってはいけません。迷子になります。
空で迷子になったら悲惨です。道もない、標識もない、ガソリンスタンドもない。
地図と地形、それと無線使った方向探知機みたいなもの(VORという機械)を使って自分の位置を探さないといけません。
うまく見つけられたとしても時間と燃料が無駄になります。
管制官に誘導してもらうという手段もありますが、あとでややこしいことになるらしいです。

ま、ともかく GPSがあればそんな心配はありません。
新しい目的地を入力してその方向に飛ぶだけです。

しばらく飛んでいると、さっきまでのもやが見当たりません。
振り返るともやはPASO ROBLESのところにしかありませんでした。
どうやらKING CITYにはもやがなさそうです。
そうなれば進路変更は撤回です。再びKING CITYに向けて飛び始めました。

KING CITYでは着陸だけが目的です。
1度着陸してすぐに出発しました。

KING CITYを飛び立った頃には もう日が沈んでいました。
一人では行きたくないと願っていたナイトクロスカントリーが始まりました。
これもやはりGPSが有ると無いでは違います。
町の灯りだけしか見えなくなって昼間と全然見え方が変わってしまっても位置だけははっきり把握できます。

真っ暗になって1時間、ようやく懐かしのREID HILLVIEWが見えてきました。
一人で夜のランディングは始めてでしたが、特にプレッシャーもなく降ろすことができました。


この日のフライトタイム 合計8時間半、飛行距離690マイル(=1275km)
本当に怖い一日でした。
あと、GPSと燃料さえあればどこにでも行けることが分かりました。

写真はモハビ砂漠の山です。