わが手に拳銃を
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あらすじ:
それは一発の銃声から始まった――。十五年前に大阪の町工場で母を撃った男・趙文礼を探してキタのクラブに潜んでいた大学生・一彰。公安の田丸もまた趙を追っていた。ある夜、クラブに現れた趙に中国語の電話がかかり、直後銃声が轟く。その時から一彰は、裏社会に生きる男たちの非情な闘いにのめり込んでゆく・・・・。
おすすめ: ★★★★ (+☆)
うわあああああ(><;)
好み過ぎて鼻血出そう・・・・
こういうの好き過ぎる・・・・
高村初期作品は何故にこんなに私を掴まえるのか?
つーーか、何で今までこれ読まなかったのかしら?
・・・それは。
うっかり『李歐』を先に読んじゃったからなんですねー。
でもさー『わが手』と『李歐』がほぼ別物であることは知ってたのよ。
だからもっと早く読むべきだったのよ、私よ!
十何年も経ってるしィ!
阿呆だわーーー
えー、『わが手に拳銃を』は九十二年作品。
それを九十九年に文庫化した際に、改稿どころかタイトルまで変わっちゃったのが『李歐』。
正直『李歐』、忘却の彼方です
覚えてるのは李歐がどんだけフェロモン放ってたか。
一彰がどんだけ李歐に目がハートだったか。(この表現て古い?)
そして、ラストがどーーーんだけ腐った私に夢見させる〆方だったか。
そんだけ!!
もう『李歐』でお腹一杯になっちゃったから、『わが手』を後回しにし続けてたんでした。
で、今回なんで手に取ったかというと、私には難関だろうと予想していた『晴子情歌』を読み始めたから。
そしてさの通り、今九十ページ程度でストップしてるから
やっぱ「旧仮名遣い」と「女性が延々語る」展開が心躍らないのよ・・・・。
高村先生、すいません。
挫折じゃないの、ちょっと置いとくだけ。
(苦しい言い訳か)
で、どうしても初期作品が読みたくなったゆえ『わが手』に手をつけたら――あ~らまあ!
するする読めたっ(笑)
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『李歐』を引っ張り出してきて「比較感想」を書きたかったけど、全然どこにあるか見当つかず・・・。
探すの諦めました。
まあ明らかに『李歐』の方が明るかったと思う。
『わが手』を読みながら後半ずっと動悸がしてたし眉間にシワ寄ってたけど、『李歐』をそんな風に読んだ気がしないもの。
で、どちらかというと今読んだばっかだからかもだけど『わが手』の方が私には合ってる。
『李歐』の方が直接的に二人がアヤシイにも関わらず、私は『わが手』推しです。
高村本はほぼ、「改稿前作品」に軍配派です。
だって、不親切で出し惜しみな方が妄想力掻き立てられるんだもん・・・・!
十回ツンとされてる中のたった一回の微笑みに一生を捧げたくなったりしやせんか!?
(はい、ドMさん集合~)
えーとー。
主人公・吉田一彰。
大学中退後、服役を経験。
その後旋盤工となり、経営者・守山から工場を引き継ぐ。
彼もまた多くの高村作品の主人公同様「ストイックな執念の男」であると思う。
基本真面目。
そのくせ突如として大胆不敵な行動に出る。
平凡な生活と破壊衝動を併せ持つ、そう、高村主人公は必ずや矛盾を抱えているのであーる。
リ・オウは、そんな一彰に目で火の矢を放った男。
両親は英国籍を持つ上海出身者で、来日中にリ・オウを産む。
七つで上海に帰るがその後、ギャングかスパイかゲリラか大金転がす商売人か・・・・・・な、正体不明の中国人。
ネタバレあり
いくつか場面を抜いてます。
結末にも触れてるのでご注意!
(あ、腐った視点で語ってますのもご注意)
↓↓↓
一旦決心をすると、一彰の心身は何があろうともびくともしない固い底を持っていた。この十五年間、何も恐れずに済むよう、数多くのものを捨ててきた結果だった。
中国黒社会の争いに巻き込まれて命を落とした母。
仇である趙文礼。
工場主・守山の拳銃。
それらがリ・オウに出会う前、大学生である一彰の内を占めてた物の総てなわけ。
そんじょそこらの大学生じゃないわけ。
だから ゼミの橘助手の妻だって密かに寝取るし、バイト先の一つである運輸倉庫でヤク中からカツアゲ喰らうと自ら用意したクスリでそいつを嵌めるし、趙を探すためにボーイとして入ったナイトクラブでマネージャー()と関係を持ったりもする。
そんな男なのに 余分な金は老人ホームの献金箱に入れるし、朝帰りだろうとレポートの一枚でも書かなきゃ寝ない。
何この二面性!?
魅かれます・・・・
一彰の母の仇である趙を殺った男、リ・オウ。
一彰はもう、普通の大学生に戻ることもできたはずだった。
なのにあえて彼は学業を捨てる。
そして、母の死の原因の一端である町工場経営者・守山と、依然何者であるか掴めないリ・オウに近づいてゆく。
「謝謝!(ありがとう)」
のびやかな上海訛りの囁きを発して、リ・オウは両腕を広げた。予想に反して、じわりと官能的な抱擁だった。一彰は息づまり、身震いしながら虚構を仰いだ。自分は今こそ悪と自由の腕に抱かれたのだと思った。道は決まった。謝謝。
敵に囲まれこれから蜂の巣になるかも知れない状況下で、この甘めな抱擁シーン。
リ・オウの強かでしなやかな生に引き寄せられる一彰。
嗚呼 リ・オウめ。
撃ち抜かれたわ・・・・(私が)
そのあとほんとに敵に撃たれた一彰が、拳銃を求める叫びを上げる。
その描写に震えた。
この本のタイトルはこのシーンからでしたか。
胸アツ・・・(つД`)ノ
リ・オウ。五年前の最後の朝、あんたに抱かれたときにこの全身に走った悪の陶酔が、今はこの、砥石の火花に伝わっている。拳銃を削るリーマに。
リ・オウ。生きていて、ほんとうによかった・・・・・・・。
一彰は自ら脚色した罪状による刑期を終え、守山の元へ収まり、彼の死後に工場を受け継ぐ。
そして計らずも、いや 底意では望んで守山と同じく「拳銃改造」に手を染める。
一彰の矛盾。
「工場経営者の顔」と「拳銃改造請負者の顔」
「根底で望むリ・オウとの未来」と「守山の娘と築き始めた家庭」
どこまで行ってもカズぼんは複雑な男・・・・・。
高村キャラで最愛のキム・バーキン(『リヴィエラを撃て』)を彷彿とさせるわ~~!
この一彰かなり好きだわ。
それにしても『李歐』の一彰と印象だいぶ違う。
たぶんこっちの一彰の方が性格悪いんだと思う(笑)
そんなカズぼん、一つだけ気に入らないとこがある。
四つの息子の玩具箱からリボルバーを見つけたところ。
一彰は敗北とか裏切りとか不快なものを息子に感じるんだが、それはないわー。
息子、父の周囲の不穏さを敏感に感じ取っていたのは間違いないもの。
息子なりの本能で父を守ろうとした結果なんじゃないかと思うんだもの、私。
なのにカズぼんめ。
バカーーー
「その前にベッドを作ろう。俺たちのベッドは札束。ベッドの下は草の大地。天蓋は青天の白雲よ。そうして渡る川が三途の川でも恨まないなら、俺はあんたのもの。あんたは俺のもの」
( ゚Д゚ノノ☆パチパチパチパチ
人たらし・・・いや、一彰たらしリ・オウ!
名言中の名言っ!
このパンチ力、たまりませんよっ、女史!!
あーーやっぱどうしても久々に口説き文句満載な『李歐』を読みたくなってきた。
今手元にある『別冊宝島 高村薫の本』をめくってたら尚更!
名言としてコレが載ってる↓
「年月なんて数えるな。この李歐が時計だ。あんたの心臓に入ってる」 (『李歐』より)
ぐわっ(><;)
男にこんなこと言う男、あんただけよ~~~~!
キュン死するっ
・・・もとい。
十年後にリ・オウは約束の三千万を渡しに一彰の元にやってきたわけで。
相変わらず「Hey」ってさ。
かっこいいゼ。
「リ・オウ。あんたがそういうことをすると、今度こそ俺はあんたを心から恨むよ。もう四割がた恨んでるが、残り六割も憎悪になる。今はまだ・・・・・・六割は惚れてるんだ、多分」
「・・・・・・十割にしろよ」
す、するするするするするする・・・・・十割っっっ!!
(興奮値ヤバイ↑)
一彰が一番かっこいいのはこのあと。
クライマックス!
自らの罪の総てを清算するためにリ・オウを振り切って出頭するところ。
警察所の扉まであとわずかの所で敵の銃弾を受けた一彰(ぼん、何回脇腹にもらってんのよ)
走り出てきた警官へ向けたセリフがたまらん。
俺は吉田一彰だ。七百丁の拳銃を削ってきた男だ。話すことが山ほどあるぞ・・・・・・。
あーもう大満足!!!
五十発の銃声がいつまでも耳から離れず、目を閉じると網膜に血の色の花が散る。
それがまた、身の毛のよだつ美しさだった。
この美しさに札束の夢と蒼白の月。このリ・オウの晴朗な狂気。
男ひとり狂うのに、これ以上何が要るか、と一彰は思った。
最後の文章がまた美しい。
リ・オウは宣言通り一彰を奪還した。
貨物船で二人は月を見る。
ウィスキーを回し飲み、中国舞踊を踊り、ライフルを天空にぶっ放す。
『わが手』の終わりは『李歐』の終わりより刹那的なムードがあるかな。
でもどちらもなんか高揚感のある読後な気がする。
反して『神の火』『リヴィエラを撃て』『マークスの山』『レディ・ジョーカー』あたりは、読後に虚脱してしまった覚えがありますよー。
どちらのタイプも好きです
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とりあえずこれで高村初期作(勝手にレディ・ジョーカーまでで区切ってます)は全部読んだので、いっちょ自分なりのランキングを作ってみようかな~と思ったけど、やっぱヤメタ。
だって数えたら九作でハンパなんだもん。
数が気持ち悪いから(笑)
こりゃあやっぱし『晴子情歌』以降を読破してからにしよう。
でも『晴子情歌』はちょっと寝かすので(ヘタレ・・・)、先にずーーっと読みたかった『太陽を曳く馬』を読んじゃおっかな・・・・・・。