Side JN
今頃、2人は盛り上がってるんだろうか。
車の窓からホテルマドリンの窓の灯りを見上げながら、ぼんやり思う。付き合い始めたばかりの若い2人があの部屋で盛り上がらないわけはないだろう。自分が勤めていなかったら泊まってみたいものだ。
レストランを出て、ジミンとジョングクの2人と別れてから、隣のバーでユンギと1時間程飲んだ。電車がまだある時間だったから、電車で帰ろうとしたら、ユンギに「タクシーがいいです」と言われたからタクシーに乗った。付き合ったばかりの時は、ユンギにこんな風にお願いされることがなかったからなんだか嬉しかった。
車で20分も走れば俺の部屋に着く。酔いの回った体に心地よい気怠さを感じながら、俺はタクシーの後部座席に隣あって座るユンギに聞いた。
「なんかアイスとか食べたくないか?コンビニで降ろしてもらおっかな」
「アイス…」
ユンギが俺をちらりと見てからぽつりと呟く。そんなにアルコールに弱くないはずのユンギもさすがに酔ったのか真白な肌がほんのりピンク色に染まっているのがわかる。
「デブりますよ」
「うっ」
「ホテルのユニフォーム着られなくなるんじゃないですか?」
「うう…」
冗談なのか本気なのか、無表情なユンギの顔からは読み取れなかったけれどいつものことだ。俺は負けずに言い返す。
「筋トレしてるからいいんだよ」
「筋トレ…すごいですね」
「お前も少しはしたら?」
シャツの上からでも分かる細い腕に目をやると、ユンギは少し笑った。
「鍵盤を押せるだけの筋肉があればいいんで」
「ま、そうだけど」
結局、アイスを食べたい欲求は消えなくて、俺達は、最寄りのコンビニの前でタクシーを降りた。
「さ、早く決めて下さい」
コンビニのアイス売り場のケースの前でユンギは短く言った。
「なんだよ〜急かすなよ〜」
「俺はこれがいいです」
「なんだよ、結局お前も食べるんじゃん」
ユンギが指したクッキー&クリームのアイスと自分用のスイカバーをかごに入れて精算を済ませる。店を出ようとした時、棚に飾られた新しいお菓子に惹かれて手に取ると、ユンギが顔をしかめた。
「帰りましょ」
「帰るけど…これ、食べてみたかったやつ…わっ、待てってば」
ユンギは俺の横を通り抜け、ドアを開けて店の外に出て行く。
「もう、なんでそんな急いでんだよ」
すたすたと夜道を歩くユンギに追いつき、手をぎゅっと掴んだ。振り向いたユンギの耳が赤く染まっていて俺は驚いた。
「ごめんなさい…その…早く帰りたくて…」
「え」
この反応って…
もしかして、もしかして…
「もしかして俺と…早く、ふたりきりになりたかった…とか?」
期待に満ちた目でユンギを見下ろすと、ユンギは恥ずかしそうに目を伏せた。
「…違います」
「いや、お前なあ…」
絶対そうだろ、と続けようとしたとき、真顔に戻ったユンギがポツリと呟いた。
「嘘です」
「えっ?どれが?」
先ほどの会話を反芻して慌てる俺を見てユンギはくくっ、と笑った。
「アイス溶けるから、早く帰りましょう」
「おお…」
くるりと踵を返して歩いて行くユンギの後を慌てて追いかけた。