(ジョングク×ジミン)です
Side JK
出会いは突然に、なんて言うけれど、「それ」が出会いだったなんて、後から思うことなんじゃないか。少なくとも、本当に最初に彼を見た瞬間、僕は彼を通行人の一人、その中でも「少し好ましい人」くらいに一瞬認識しただけだった。
早朝、まだ淡い光の下で走るのが気持ちよくて、朝走るのを習慣にしはじめた頃だ。僕は走り慣れてきた路地を一心不乱に走っていた。その時、同い年くらいの少年が、右の路地から慌てた様子で駆けてくるのが見えて、僕は速度を落とした。
うわ、すごい真剣な顔…
目の前を横切る少年は必死そうな、どこか思い詰めたような顔をしていた。白い肌、柔らかそうな明るい茶色の髪、切れ長で、潤んだように見える瞳に目が奪われる。僕は足を止めて、腕や肩をストレッチしながら、休憩するふりをして彼を目で追った。背中に何か大きな荷物を背負ったその人は、路地裏のアパートメントの前で立ち止まった。配達の伝票を出して、部屋番号を確かめていく横顔から目が離せない。
同い年くらいかな…
こんな早朝に、あんな焦ったような顔…
なぜか落ち着かない気持ちになって僕はその人を路地の陰からじっと見つめた。その人はリュックから小分けにされた荷物を出しているようだった。
なんだろ…白くていっぱいある…
お餅…?
彼はアパートメントの一階の部屋の扉に近づくと呼び鈴を押した。
Side JM
その人の家は、配達ルートの最後にあった。
リュックに背負ったお餅が軽くなっていくのに反して、心は重くなっていく。あの人が最後だとわかっているからだ。最後にしていたのは、その人の対応にいつも時間がかかるせいだった。せめて早く始めて早く終わらせようと、僕は自転車を表通りに止めてから、アパートメントまで走って行った。
部屋の前に立ち、深呼吸する。配達するお餅の袋を手に持って、呼び鈴を押した。
「おはよう、ジミン!」
「お、おはようございます」
僕は慌ててお餅を差し出した。なぜなら…
「ジミーン!」
その部屋の主であるカンさんはいつも声が大きい。それだけなら、僕だって、平気だ。だけど…
「ふふっ、今日も可愛い。お肌真っ白だ」
お餅ではなく、手を掴まれて全身に怖気が走った。
ああ…
こんな風に思うなんて…
僕、酷い奴なのかな…
僕が引き気味に胸に引き寄せた手首を、カンさんはぐっと自分の胸に寄せる。
「あ、あの…お餅…」
「すべすべ…」
僕の手を取り、頰に押し付けるカンさんに、お客さんなのにゾッとしてしまって、僕は自己嫌悪に陥った。
うちのお餅を買ってくれて…
いい人、なのに…
だけど、手首を掴まれている感触は気持ち悪くて、僕は早くお餅を渡そうと、カンさんと目を合わせた。
「ジミナ!」
「へ?…わ!わぁっ」
カンさんのふくよかな腹に抱き寄せられる。僕はつんのめって顔をカンさんの腹にめり込ませてしまった。
「今日は寄っていける?朝ごはんできてるよ」
「あ、あの…僕まだ配達が…」
カンさんの腕から逃れようともがきながら、もごもごと言う。
「ちょっとくらいいいじゃん、ほら」
カンさんは部屋のドアを自分の体で押すと、僕の肩を抱いて無理やり中に押し込もうとする。
困ったなあ…
その時、背後から誰かが「ジミナ!何サボってんだ?」と声をあげた。僕はびっくりして振り向いた。
だ、誰…
目がくりくり…
見知らぬ少年がひとり立っている。他に誰もいなかったから、彼が僕に声をかけたようだった。驚く僕とカンさんが動けずにいるところに、少年はアパートメントの階段を軽やかに登ってどんどん近づいてきた。
この人がダンスをするとしたら、どんなだろう…
身のこなしのキレに思わずそんなことをぼんやり思った瞬間、少年は目の前に来ていて僕の手を取った。
「配達まだ途中だろ、サボってちゃダメだよ」
僕の頭はまだ混乱していたけれど、僕の手首を握る少年の手のひらは温かくて、力強いのに強引ではなくて、嫌な感じは全くしなかった。なんとなく、助けようとしてくれているのがわかった。
「カンさん、そんなわけだから、また今度!」
僕はあっけにとられたままのカンさんに、持ったままだったお餅を半ば押し付けるようにして渡すと、少年の後ろについてアパートメントを後にした。