メニューを見ていたジニヒョンが顔を上げた。
「よし、パクジミンのお祝いだし何か飲もう。お前ら、もう飲めるんだっけ?」
「僕はもう飲めますけど…ジョングクはまだ…」
韓国では満年齢19歳で成人だ。ジミニヒョンは飲める。僕はまだ飲めない。ジミニヒョンと僕の間に見えない線があるみたいに感じて、少し寂しくなった。
「あ、そっか。じゃあやめておくか」
「い、いえ…僕に遠慮なく飲んでください。僕は別のものを飲みます」
メニュー表を閉じようとするジニヒョンに僕は慌てて言った。僕のせいで皆の楽しみがなくなるのは嫌だったこともあるけれど、もう一つ大きな理由があった。
僕といる時はジミニヒョン、お酒飲まないから…
酔っ払ったジミニヒョン、見てみたい…
僕はちらりとジミニヒョンを見た。肌が透き通るように白い。僕に気づいて微笑む頰は柔らかそうで、触りたくてたまらなくなった。
「よし、じゃあワインとチーズ頼もう。それと俺らは食事と…」
ジニヒョンは時折ユンギさんと相談しながら、てきぱきとメニューを決め、スタッフを呼んでオーダーを済ませた。すぐに飲み物が運ばれてくる。
「ジミナ、おめでとう!乾杯」
3つのワイングラスと、僕のノンアルコールのカクテルのグラスをそっと合わせる。ジミニヒョンは照れたように笑うと、グラスを傾けてワインを口にした。
「へへ…ありがとうございます、あ、美味しい…」
「それはよかった」
ジミニヒョンは気に入ったのかもう一度グラスに口をつけた。傾いたグラスを真紅の液体が滑っていく。ジミニヒョンの白い喉がごくりとうごめいた。
なんでこの人は…
こうして飲んでるだけで、なんか…
ジミニヒョンを見ているだけで体が熱くなりそうで僕は慌てた。冷たいノンアルコールのカクテルを一口含む。
「ジミニヒョン、お酒は強いの?」
僕が聞くと、ジミニヒョンは首を傾げた。
「うーん…わからないけど…何回か飲んだけど気持ち悪くなったりしたことはないよ」
「それはたぶん強いんじゃないか?」
ユンギさんが言い、ジニヒョンも頷いた。
「そうなんですかね…なんかわからなくて…」
「ふ、お前、苦労しそうだな」
ジニヒョンが僕の方を見て笑った。
お酒関係なく、もう、結構苦労しているような気がするけど…
僕はチス先輩やムホのことを思い浮かべて苦笑した。そもそも、初めの出会い方だって、僕のそこからの苦労を物語っているようなものじゃないか…
「お二人は付き合って長いんですか?」
僕が問うと、ユンギさんは「いや…」と呟いた。
「まだ半年くらいだよ」
「え、そうなんですか?僕てっきり5年くらい一緒にいるのかと」
ジミニヒョンが目を丸くする。僕も驚いた。二人の雰囲気が、長年連れ添った夫婦みたいだったからだ。
「へ?そう?じゃあ、俺たち似合ってるってことだよな、ユンギ」
「そうかもしれないですね」
嬉しそうにユンギさんに笑いかけるジニヒョンに、クールに答えるユンギさんを見て僕は噴き出した。
「浮気したりとかないんですか、ジニヒョン」
面白そうに笑うジミニヒョンが無邪気に問うと、ジニヒョンは驚いたように目を見開いた。
「お前なあ…ユンギの前で何てこと聞くんだよ…わ、ユンギ、何でそんな目で」
「何でそんな焦ってるのかなあって」
ユンギさんが口を引きむすんで緩く笑いながらジニヒョンを覗き込む。
「いやーお前な…やっとお前と付き合えたのに…浮気なんかするわけないだろ」
ジニヒョンが唇を尖らせて言うと、ユンギさんがつぶらな瞳を見開いた。
「わかってますよ…」
ほとんど聞こえないくらいの小さな声で呟いたユンギさんの耳は、また真っ赤に染まっていく。
ふたりの馴れ初め、聞いてみたいなあ…
