Side JK
身支度を整えて2人で部屋を出る。2人とも同時にドアを閉めようとして、ドアノブで手が触れ合って顔を見合わせた。恥ずかしそうに微笑むジミニヒョンを見て、僕は幸せになった。僕たちには秘密ができた。この部屋に入る前と出た後では、同じだけど、違う2人だ。ジミニヒョンの手を取ると、そっと握り返してくれて、じんわりと温かい気持ちになった。
最上階のレストランに着くと、窓際の4人席に通された。向かい合って座る。
「わあ…夜景だあ…」
窓の外はもう暗い。街側に面した窓からは、キラキラと輝く無数の明かりが見えた。ジミニヒョンは席につくなり、窓の外に向けて何枚か写真を撮った。
可愛いなあ…
今度は、僕が…夜景見られるところ…連れて行ってあげなきゃ…
ジミニヒョンのはしゃぐ横顔が可愛くて見惚れているところにスタッフの方がオーダーを取りにやってきた。
Side JM
「…パスタをお選び頂けます。本日のパスタは、フレッシュトマトと自家製ベーコンのアラビアータもしくはポルチーニ茸とチキンのペペロンチーノとなります」
「アラビアータをお願いします」
「ぼ、僕もそれでお願いします」
「メインもお選び頂けます…韓牛のリブロースステーキもしくはイベリコ豚のハープグリルどちらになさいますか?」
「えっと…韓牛で…」
「僕もそれをお願いします」
「かしこまりました」
慣れないイタリアンのプリフィクスのコースのオーダーを終えると、僕らは顔を見合わせて微笑んだ。
「お前、全部僕と同じの…真似しないでよ」
慌てたように同じものをオーダーするジョングクが可愛くてからかうと、ジョングクは笑って口を尖らせた。
「真似じゃないです…ホントに!同じものが食べたかったんですよ!」
「ふふ…」
その時、レストランの真ん中に置かれたピアノに近づく男性が見えた。
「あ、SUGAだ!!…ミニライブあるって言ってましたよね」
「あの方なんだ…まだ若いね」
タキシードに身を包んだピアニストの男性は、僕とあまり変わらないくらいの年齢に見えた。やがて演奏が始まった。ちょうど前菜が運ばれてきて僕らは食事を始めた。
「ああ…いいなあ…グルーヴを感じるクラシック…」
ジョングクはピアニストに釘付けだ。うっとりとひとりごとを言う彼が、いつもより大人びて見えて、ドキドキした。
「わあ、キレイなアルペジオ…」
嬉しそうに笑うジョングクを見ていると僕も嬉しくなった。にこにこしながらジョングクを見ていると、彼はこちらに気付いて恥ずかしそうに笑った。
「ごめんなさい、夢中になっちゃった…これ美味しいですね」
「ううん、もっと話して」
ジョングクの心を奪うものを知っておきたいな、と思う。何を、どんな風に、美しいと思うのか。ちゃんと知っておいて、いつか僕が見つけたときは一緒に慈しみたいと思った。自分以外の他の人間に対してこんな風に思うことは初めてで、僕は自分に驚いた。恋ってすごいなあ。こんなにも自分の考え方に変化を及ぼすなんて。
「あ…次はジャズだ…」
ジョングクが感嘆したように小さく呟く。クラシックの名曲にジャズの味付けを施した演奏に体が勝手に動きそうになる。
これなら…例えば…
こんな動きがかっこいいかも…
自然と、踊る自分のイメージを描いている自分にびっくりした。
ありがたいな…こんな刺激…
最近スイーツコンテストにかかりきりでダンスの自己レッスンをさぼっていた。また試したいダンスが見つかって僕は嬉しくなった。
「どうしました?にこにこして…」
「あ…今度この演奏みたいな曲で踊ってみたいな、と思って」
「わあ、絶対素敵ですよ。今度SUGAのCD貸します」
「ホント?ありがとう」
曲が終わり、僕らはフォークとナイフを置いて力一杯拍手をした。