どんな手を使ってでも逃げ出そう、と決めたものの具体的な策は何も思いつかなかった。ただ、今いる倉庫には中から閉める機構がないということは観察できた。扉は閉まっているものの、鍵はかかっているわけではない。
要は、この手が縛られているのと、この2人をどうにかできれば…
その時、ソンジンが立ち上がった。
「どうした?」
「トイレ行ってくる…ついでに試合の状況確認してくるわ」
ソンジンは言うと、すたすたと倉庫のドアへ近づく。
チャンスかも…見張りが一人になる…
僕がドキドキして見守っているとソンジンはドアの前でクォンテの方を振り返った。
「おい、お前、二人きりになるからって変なこと考えんなよ」
「考えるわけないだろ」
クォンテが笑って言うとソンジンは安心したように笑って倉庫から出ていった。薄暗闇に戻った倉庫内に沈黙が落ちる。
変なことって…
その…そういうことだよね…?
僕はスマホを見ているクォンテを横目で盗み見た。
僕って…もしかして…そういう風な目で見られがちなんだろうか…
さっきもソンジンが可愛いって言ってたし…
よく考えたらムホも可愛いとか…
僕って…可愛いのかな…
仲の良い友達が聞いていたら、「は?」と聞き返されそうだ。しかし僕は真面目に考え続けた。
僕が、人に…その…変な気を起こさせるくらい可愛いんだったら…
それを材料にここを突破することも…できやしないかな…
そう考えると、すぐに行動に移す必要があった。ソンジンがここを出てから少し時間が経っていたからだ。いつ戻ってくるかわからない。試合も始まってしまっているだろう。
「あの…」
僕がクォンテに話しかけると、クォンテはびっくりしたようにこちらを見た。
「手首が痛くって…ちょっとどういう風になっているか見てもらえないかな?」
「ああ…それくらいなら」
クォンテはゆっくり立ち上がると僕のところに近づいてきて、後ろへ回って縛られた手首を確かめた。
「ちょっと赤くなっちゃってるかも…」
クォンテが気の毒そうに言う声に、僕は、彼が意外と優しい子なのかもしれないと思った。僕は振り向いて、クォンテと目を合わせた。
「痛いからちょっとだけでも…緩めてもらえると嬉しいんだけど…」
じっ、とクォンテを見つめると、彼は慌てたように目を伏せた。手首を縛る紐を少し緩めてくれる。それが終わると、クォンテは立ち上がって元の場所に座った。