「そうだよなあ…あーもったいない…」
「しょうがないよ…俺だって好きなタイプだけど…ヤっちゃったら交渉できなくなるじゃん」
クォンテがそう言いながら、僕の方を名残惜しそうにちらりと見たから、僕は身を固くした。
交渉…?
「まあこんなことまでして試合に勝ちたいなんて意外だったけどなあ…」
「ジョングクにはいつ言うんだっけ?」
「試合始まってからだろ…あ、でも待てよ。ジョングクの奴、結構負けず嫌いだから、普通に戦って勝っちゃったりして」
「そしたら、このままいただいちゃうだけだろ」
ソンジンがにやにやと下卑た笑いを浮かべて僕を見た。
ど、どういうこと…
2人の会話の内容を思い出しながら僕は必死で考えた。
『こんなことまでして試合に勝ちたい』というのはムホのことだろう。
『ヤっちゃったら交渉できなくなる』ってことは…
交渉材料は僕…
2人の言葉が頭をぐるぐる回る。
『ジョングクにはいつ言うんだっけ』
『試合始まってからだろ』
『ジョングクの奴、結構負けず嫌いだから、普通に戦って勝っちゃったりして』
そうか…
…僕の無事と引き換えに、ジョングクにわざと負けるように言うつもりなんだ…
その結論にたどり着いた瞬間、驚きと怒りで体が震えた。
ジョングクの言った通りだった…
そんな悪い子に見えないって言ったけど、僕がバカだった…
ムホの奴、こんなことして、クズじゃないか…!
僕は後ろ手に縛られた拳をぎゅっと握りしめた。
どうしよう…このままだと…
ジョングクを応援することもできないばかりか…
ジョングクに…わざと負けるよう脅す材料にされてしまう…
『ムホに勝ったら…キスの先のこと…全部、していいですか?』と僕に聞いたときのジョングクの頰が染まっていたことを思い出すと胸が痛くなった。僕は焚き付けるように「ムホに勝ったらね」と返したけれど、もちろんそれは本意ではない。たとえ負けたとしても、正々堂々、全力で戦った結果なら何も問題はない。そして試合で全力を出すために彼は、僕に会うのを我慢して猛練習していたのだ。
全力で戦う、そんなことさえ、叶わなくなるなんて…
何より心配なのはジョングクの気持ちだった。負けず嫌いの塊みたいな子なのに…わざと負けるなんてきっとできない。
だけど…
カンさんに絡まれて困っていた身も知らぬ僕を助けてくれたジョングク。正義感が強く優しい彼が、僕のことをあっさり諦められるとも思えなかった。きっと、僕を助けたい気持ちと、わざと負けたくない気持ちの狭間で揺れるに決まっている。
ジョングク…苦しめたくないよ…
ここから出なきゃ…
どんな手を使ってでも逃げ出そう。僕は心に決めた。