「こっちですっ」
僕を呼びに来た高校生は、廊下を走り、体育館を出た。
「あれ?体育館じゃ…」
「ジョングクはこっちに運び込まれてます」
ジョングク、と名前を聞くと胸の奥がきゅっと絞られたみたいに不安になる。その子の後に走ってついていくと、体育館の裏手の倉庫にたどり着いた。少しだけ開いたドアから、その子を追って中へ入る。
「ジョングク、大丈夫?…あれ?…わっ」
ジョングクの姿が見当たらない。そう思った瞬間、僕の背中に何かが飛びついてくる。事態を把握した時には、既に何者かに羽交い締めにされていた。もう1人、僕を呼びに来た子が後ろを走っていたのだ。前にいた少年が、素早くドアを閉め、倉庫は窓から入る灯りだけの薄暗闇になった。
「あっ、こらっ、何する…」
2人は素早く僕の腕を後ろでまとめた。1人が細い紐状のもので僕の手首を縛る。
「こらっ、やめろっ…痛っ」
抵抗すると、どん、と強く押されて地面に尻餅をつく。その座った姿勢のまま、後ろ手にバスケットのゴールの柱の下の方に括り付けられた。
「かなりのお人好しで助かったなあ」
「ああ」
その時僕は気づいた。彼らの制服はヤンウン高校のものだ。
「なんで…どういうつもり…」
「手荒な真似をして悪かったです」
大柄だけど、どこか気弱そうな表情をした少年がしゃがみこみ、僕のシャツに着いた汚れを払いながら言った。もう1人は小柄な少年だ。
「え…ジョングクは?どこ…」
改めて倉庫内を見回す。跳び箱やマットレスやサッカーボールなどが所狭しと置いてある。ジョングクの姿はやはりない。
「ジョングクは体育館です」
大柄な少年が体育館の方向をちらりと見た。
「じゃあ、倒れた…ってのは…」
「嘘です」
「よかったぁ…」
安堵が胸に広がる。僕はほうっ、とため息をついた。
「ふ、やっばりお人好しすぎる…縛られてるってのに」
「へ⁈」
そばで見ていた小柄な少年が鼻先で笑った。僕が顔を見上げると、彼はにやりと口角を上げた。
「ジミンさんには、今体育館でやってるテコンドーの試合の間だけ、ここにいてもらいますよ」
「え?なんで…僕試合見に来たのに…」
小柄な少年はにやにやしたまま黙っていた。大柄な少年も黙ってこちらをじっと見つめているだけだ。僕は慌てて手首をぐい、と引っ張り上げたが、紐が少し動き、固定先のバスケットのゴールがかすかなきしみ音をたてただけだった。小柄な方の少年が眉をしかめて、僕の方へ近づくと、顎に手をかけて、くい、と僕の顔を上げさせる。
「大人しくしていれば、試合の後解放しますから…」
「なんでこんなこと…僕、ジョングクを応援したいよ…離して」
僕は首を振って彼の手を振り払った。僕は焦り始めていた。ジョングクは僕が来たのを知っているはずだ。試合の時に僕がいないと知ったら、ジョングクはきっと心配するだろう。