体育館のフロアを出て、廊下をしばらく歩くと、各部の部室やトレーニングルームの並ぶ一角がある。そのうちの一部屋が、今日はムホの高校であるヤンウン高校の控え室になっているようだった。
「こちらです。試合始まる時にまた呼びにきますね」
部員たちはテコンドー部の部室のドアを開けて僕を通すと、先に体育館に戻って行った。誰もいない部室に入って、お餅の箱をベンチに置き、かたわらの椅子に座る。
ジョングク、試合前に一度戻ってくるよね…?
僕は時間を確認しようと、スマホを取り出した。その時やっと、ジョングクからメッセージが来ていることに気づいた。
『ごめんなさい』
『ひどいこと言ってごめんなさい』
『本心じゃないです』
『あいつと話してるジミニヒョンが可愛くて妬いてしまって』
『本当にごめんなさい』
『ジミニヒョンを失ったら僕耐えられないです』…
…わあ、僕…
昨日寝ちゃって全然気づいてなかった…
朝もバタバタしていたせいで、スマホは充電ケーブルを外してそのままポケットに突っ込んできたのだ。僕は慌てて、『ごめん、僕寝ちゃってて今見た。大丈夫だよ。僕もごめん。試合前に少しだけ会える?』と返信した。そのとき、部屋のどこかからブルッと振動が聞こえた気がした。
あ、もしかして…
ロッカーの一つに『ジョングク』と名前が貼ってある。そのロッカーをそろりと開けると、中にスマホが置いてあった。
そっか、練習中だもんね…
もしかしたら、このまま試合に行ってもう戻ってこないかな…
試合の前には、仲直りしておきたいような気がして、僕はもう一度体育館に戻ろうと決めた。その時、部室の外でバタバタと何人かが走ってくる音がした。
「大変です、ジミンさん!」
「へ?」
さっき案内してくれた子ではないが、部員と思しき制服を着た高校生が2人、慌てた様子で入ってきた。
「ジョングクが…大変なことに」
「倒れちゃったんです」
「えっ…」
ぞわりと胸が波立つ。胸の奥を冷たい手にぎゅっと掴まれたような感覚に襲われた。
「来て下さい、早く」
「わかった!」
2人がドアの外に飛び出して、僕も後を追った。廊下を全力で走っていく。
何があったかわからないけど…
無事でいて、ジョングク…!