「彼氏さん来てるんで…じゃあまた明日」
ムホが手を振って立ち去り、僕が安堵のため息をついたところへ、ジョングクがやってきた。
「あ…ジョング…」
「ムホと何話してたんですか?」
ジョングクは不機嫌そうに言った。その口調に怒りが滲んでいて、どきりと胸が震える。
「あ、えっと…」
僕は言い淀んだ。
『お前に勝ったら、僕に告白するんだって』
なんて言ったら…怒るだろうなあ…
「僕には言えない話を、仲良くいちゃいちゃしながらしてたんですね…あんな卑怯な奴と」
「ちがっ……」
『いちゃいちゃなんかしてない』と言おうとしたけれど、ムホに触られた頬にまだ感触が残っていた。たしかに、ジョングクが見たらそう見えたのかもしれない…
「顔見知りだったからって、あいつの肩を持つんだ?ジミニヒョンは」
一瞬、なんのことを言ってるかわからなかったけれど、すぐにジョングクが、僕の反応を、「(ムホは)卑怯な奴」と言ったことに対する否定の言葉として受け取ったみたいだと分かった。
「で、あいつ、『また明日』って言ってませんでした?」
僕が何か言う前に、ジョングクは不機嫌そうに眉をしかめて言った。
「あ、うん…僕試合見にくるって言ったから」
「じゃあ、もう見にこなくていいです」
「え?」
ジョングクの言葉に耳を疑う。騒ぐ胸が、どんどん冷たくなっていく。
「見にこなくていいです…どうせあいつといちゃいちゃするんでしょ?」
「ちがっ…何言ってんの」
僕は慌てて訂正したけれど、冷たくなった胸の奥から、少しずつ怒りが湧いてくるのも感じていた。なんだよ、僕の話もなんも聞かずに…。僕はふくれっ面したジョングクにむかって言い放った。
「…じゃあいいよ!来ないから!そんな誤解されるくらいなら来ない!」
僕は子供みたいにそれだけ言うと、ジョングクの顔も見ずに踵を返し、小走りで体育館を後にした。
