ジョングクとあった翌々日、ホテルマドリンでの授賞式を終えた僕は、その足でジョングクの高校に寄ることにした。試合の前に一度テコンドー部の皆に会いたかったのもあるが、ジョングクに授賞式のことを話したかったのが一番だ。
なんか、すでに懐かしいなあ…
テコン舞の練習に付き合うため通っていた体育館の前までやってきた。開け放たれたガラス扉からテコンドー部の部員達が見える。中に入ろうとした時、正面扉の脇から、体育館に入ろうとしている人が見えた。
あれ…あの子って…
その人がこっちを向いて、僕に気付いて微笑んだ。
「ジミンさん!」
「ムホ」
「あ、今日は覚えててくれたんですね」
ムホがすぐに僕がいる正面のガラス扉の前まで駆け寄ってきて、僕の手を取った。
この子、すぐ手つなぎにくるな…
一瞬、ジョングクに言われた「ムホと話さないで」という可愛いわがままを思い出して、体に力が入る。それを知ってか知らずか、ムホは今日はすぐ手を離した。
「ジミンさん、なんでここに?」
「あ、えっと…明日テコンドー部の試合だから、皆の様子を見に…」
「へぇ、どういう関係なんですか?」
ジョングクとの関係を思うと、頰が熱くなった。しかしそのまま明らかにすることは憚られた。
「えっと…一時期、テコン舞を教えていたから」
「そっか、ヒョンドヒョン達とダンスされてましたもんね…今日はどうされたんですか?」
ムホは僕の着ているスーツを見ながら聞いた。コンテストの授賞式に何を着て行けばいいかわからなくて、ジニヒョンにこっそり相談したら「スーツに決まってるだろ!」と呆れたように言われてしまった。それまでの人生でスーツなんか身につけたことがなかった僕は、慌てて昨日スーツを買いに行ったのだ。
「あ…ホテルに用事があったから…」
「そうなんですね、すごく似合ってます。かっこいい」
「ほんと?」
ムホがスーツを褒めてくれたから僕は嬉しくなった。にこにこ笑ってムホを見ると、ムホが僕の顔を覗き込んで微笑んだ。
「あ、でも今、可愛くなりました」
「へ⁈」
「可愛いです、ジミンさん…」
ムホが近づいてくるので僕は思わず後ずさりした。背中に開け放たれた体育館の大きなガラス扉が当たる。
「僕明日ここでテコンドーの試合するんで、ちょっと様子を見に来たんですが…」
「うん、知ってる…ジョングク達と試合するんだよね」
ムホの顔を見ていたら、『ムホに勝ったら…』と言っていたジョングクを思い出して、慌てて目を伏せる。胸がどきん、と跳ねた。
「そうなんです…それで、ジミンさん…」
「なに?」
そんなはずは絶対にないのだけれど、明日の試合の勝敗結果と僕達の関係の進展に関係性があることを見透かされたのかと、ドキドキしながら顔をあげる。
「わっ」
すぐ前にムホの顔があって、僕は小さく声を上げた。
「明日の試合に僕が勝ったら、僕と付き合ってくれませんか?」