「はい、『餅屋』です」
ドキドキしながら、電話に出る。
「お世話になっております。ホテルマドリンのキムソクジンですが、ジミンさんいらっしゃいますか?」
「あ…いつもお世話になっております!僕です。ジニヒョンですか?」
「ああ…ジミン、アンニョン」
ホテルで、僕のお店のお餅の受付を担当しているジニヒョンだ。明るく面白いヒョンとは、納品の時に何度か会って仲良くなった。
「ジニヒョンが真面目な電話してきたからびっくりしました」
「おいおい、どういう意味だよ…お前、コンテストの結果聞きたくないのか?」
「え…」
受話器をぎゅっと握る。ジョングクが心配そうにこちらを見ていた。
「だ、だって…ジニヒョンが審査するなんて思ってない…」
「ははっ、まさか。審査はうちのパティシエの先生達だよ。俺はただの広報担当」
ジニヒョンは明るく笑うのと対照に、僕はなんだか緊張してきた。いつのまにかジョングクが背後に立って、肩を軽く抱いてくれていた。
「それで…その…」
「ああ…そうだ、なんと!餅屋パクジミンさん!」
「は、はい!」
名前を呼ばれてびくっと体が揺れる。ジョングクを見ると、彼は黙って目を見開いた。
「お餅ケーキ、3位受賞です!チュッカヘヨ〜!」
「ホ、ホントですか?ホントに?」
「俺が嘘言うと思ってんのか?ファクトだよファクト」
め、めっちゃ嬉しい…
思わずその場でぴょんぴょん跳ぶと、ジョングクが目を丸くした。
「ありがとうございます、ジニヒョン!めっちゃ嬉しいです…ジニヒョンが勧めてくれたから僕…」
「いやーほんと、俺のおかげだな…ってのは冗談だけど…先生達の評は授賞式でちゃんと聞けばいいと思うけど、『お餅ケーキが斬新』ってのと、『テーマがよく表されている』ってのと、やっぱり最後『味もすっきり洗練されている』ってさ」
本当に夢みたいだ。興奮した頭のまま、ジニヒョンが言う授賞式の日時をメモする。
「じゃあ、改めておめでとう。また授賞式でな」
「ありがとうございます!はい、また…授賞式で…失礼します」
受話器を静かに置いて、ジョングクを振り返る。
「3位だって!」
「わぁ、おめでとうございます!すごいじゃないですか!」
ジョングクとぎゅっと抱き合うと、喜びが実感に変わってしみじみと嬉しくなってきた。ジニヒョンの伝えてくれた先生達の評を思い出してにやけると、ジョングクにまたぎゅっと抱きしめられた。
「授賞式があるんだ?」
「うん…明後日だって」
「わあ…すごいなあ…」
「何着て行けばいいんだろう…」
僕が頭の中で授賞式に着ていく服に考えを巡らせ始めた時、ジョングクが少し口を尖らせて言った。
「ね…今の電話の人…すごく仲良さそうだったけど、誰ですか?」
そ、そこで引っかかるんだ〜!
僕は内心びっくりしたけれど、実際のジニヒョンの姿を思い出すと、どきん、と胸が鳴った。
なんだこの罪悪感みたいなの…
そっか、ジニヒョン、大人だし…イケメンだしな…
僕は、ムホと話していたらジョングクに心配されたことを思い出した。
ジョングクが気にするといけないから、ジニヒョンのことはあまり話さない方がいいかな…
僕は内心の小さな動揺を表に出さぬよう、にこ、とジョングクに笑って見せた。