Side JM
ジョングクとのデートの次の日から、僕はコンテスト用のお餅ケーキの仕上げに没頭した。
ホテルマドリンでのコンテストは、毎年開かれている、そこそこ規模の大きいものだ。入賞すると、五つ星ホテルであるマドリンのロビーにあるカフェで、期間限定ではあるが、メニューとして出してもらえる。そのため、毎年若手のパティシエ達が皆、しのぎを削るのだ。僕は初めて応募するのだけれど、一つ頭を悩ましていたことがあった。
スイーツコンテストには毎年テーマが設けられる。
一昨年なら「旅」。
昨年は「花」。
そして今年は…
「愛」。
…お餅ケーキでどうやって「愛」を表現したらいいんだろう…
ホールケーキに模したお餅ケーキの土台となる部分の構成は決まっていたが、ケーキの上の部分のデコレーションがなかなか決まらないのはそのためだった。
「愛」かぁ…
いろんな愛があると思うけど…
今、僕の心を支配しているのは、ジョングクとの恋愛だろう。お店に立っている時も、おばあちゃんと食事している時も、お風呂に入っている時も、眠る前にぼんやりしている時も、ジョングクのことを考えるだけで、ドキドキした。不安になる時もあれば、あったかい気持ちになることもあった。つい先日、海辺で抱き合った時のことを思い出すと、無性に触れ合いたい気持ちにもなった。
この気持ちを、そのまま表したいな…
僕は応募の日まで毎日夜は厨房に篭り、何度も試作を繰り返した。
Side JK
ジミニヒョンと「キスの先」をしなかったことが、テコンドーの練習に没頭するのにそう役に立っていないことに気づいたのは、デートの後すぐのことだ。ジミニヒョンとキスした時のことを思い出すだけで、頭の中がジミニヒョンでいっぱいになって、それしか考えられなくなった。
柔らかな唇の感触、甘い香り、さらさらした髪、温かいジミニヒョンの体…
思い出すと頭の中にジミニヒョンの吐息交じりの声が響いて、練習どころではなくなりそうになった。
けれど、1週間は会うのを必死で我慢した。しかし、限界が突然やってきた。デートの日から7日目、僕はジミニヒョンに会いたい気持ちを抑えることが出来なくなって、とうとう会いにいくことにした。練習が終わった時には、お餅屋さんの閉店まであと10分で、僕は慌ててダッシュした。
ああ…事前に行くって連絡しておけばよかった…
走りながら後悔する。そんな簡単なことに頭が回らなくなるくらい、会いたくてたまらなかった。
「ジミニヒョン!」
すでにクローズの看板がかかった店内に飛び込む。
「ジョングク!」
店内には誰もいなかったけれど、ちょうど奥の厨房からジミニヒョンが出てくるところだった。久しぶりに会うジミニヒョンはコックシャツ姿で、変わらず可愛くてドキドキした。

