僕らの住む街は海沿いにある。湾にかかる橋があるビーチがデートスポットとして人気だったから、ジミニヒョンとのデートが決まった時からずっと行きたいと思っていたのだ。ビーチに着いたときには日が暮れかけていて、橋のライトアップが始まる時間帯だった。
「わぁ…きれい」
ビーチに着いて、橋を目にした瞬間、ジミニヒョンが立ち止まって呟いた。橋のきらめくライトが半円を描く様は美しくて、僕も感動した。だけど、本当に見惚れてしまうのは…
僕はジミニヒョンを見つめた。彼は、夕方吹き出したゆるやかな海風に吹かれて、目を細めたところだった。僕達が立っているところはまだ舗装された歩道だったが、目の前は砂浜になっている。日が暮れたばかりだからまだ少ないけれど、あたりにはカップルがちらほらいて、寄り添って砂浜を歩いたり海を眺めたりしている。僕はジミニヒョンに向かって手を差し出した。恥ずかしそうに微笑んだジミニヒョンがその手をぎゅっと握ってくれた。
「海の方に行ってみますか?」
「うん」
嬉しくなった僕は、ジミニヒョンと繋いだ手とは反対の手に持った袋を軽く揺らしながら砂浜を歩いた。袋の中にはさっきのハンバーガー屋さんで買った温かい飲み物が入っている。春先だけど海辺は冷えるかもしれない、と思って、店を出るときに買ったのだ。
波打ち際に着くと、ジミニヒョンはいきなり僕の手を離して波に向かって小走りで近づいて行った。
「海だ〜!夜の海だ〜!」
「待って待って」
はしゃぎ声を上げるジミニヒョンを追いかける。ジミニヒョンは波打ち際で身をかがめて、波に手を伸ばした。
「あ、ちょっと冷たい」
「あ、ジミニヒョン気をつけて…濡れちゃう」
ジミニヒョンが波打ち際ギリギリに立っているので僕はひやひやして言った。ジミニヒョンは振り向いて微笑むと、立ち上がって、波から少し離れたところで止まっていた僕のところに駆けてきた。僕の顔に手を伸ばす。
「こんな感じ」
「わ、冷たっ」
僕の頬に触れたジミニヒョンの手は風に吹かれたせいもあるのか冷たくて、僕は声をあげた。ふふ、といたずらっぽく微笑んで僕の頬を指でタップしているジミニヒョンの手をぎゅっと握る。
「あ…」
きらめく橋の灯りを映すジミニヒョンの瞳はキラキラしていて、僕は吸い込まれるみたいに顔を寄せた。唇を重ねてまぶたを閉じる。ざざん…と揺れる波の音が遠のく気がした。ジミニヒョンが僕に包まれた手を動かし、指を絡ませて、もう片方の腕を僕の体に回した。唇を離すと、ジミニヒョンが僕を見つめて小さくささやいた。
「波…来ちゃう…濡れちゃうよ」
「ジミニヒョンがまっすぐここに来たんでしょ」
ふふっ、と笑いながら額を合わせると、ジミニヒョンはいたずらっぽく笑い声をあげた。
「どこか…橋のライトアップが見えるところでさっき買ったの飲みましょう」
僕が言うと、ジミニヒョンはきょろきょろと辺りを見回した。
「あの木の陰がいい」
ジミニヒョンが指さしたのは砂浜の一角に生えている木々だった。
「橋見えるかなあ」
僕が疑問を口にすると、ジミニヒョンは口を尖らせた。
「…もう、キスしたいから、だよ!」
言うなり真っ赤になって照れて、ジミニヒョンは一目散に木々に向かって走っていった。
僕…
心臓撃ち抜かれて動けないんだけど…
僕の手にぶら下がる飲み物が、海風に吹かれてゆらゆら揺れた。