店内に入ると、ジョングクは、「ここは僕がおごりますから…席取っててください」と言い、レジに並んでくれた。店内は混んでいたが、ちょうど店の隅の2人席が空いた。席に座って、並んでいるジョングクに小さく手を振ると、にこっと笑顔を浮かべてくれるからドキドキした。
はあ…どうしよう、楽しい…
デートって楽しいんだな…
ジョングクは長い列の最後尾でまだ少しかかりそうだった。僕はスマホを取り出して、鼻歌でも歌い出せそうなくらい機嫌よくいると、頭上から声がした。
「あの…この席空いてますか?座っていいですか?」
いきなり馴れ馴れしく肩に手を置かれたこともあり、びっくりして顔を上げる。僕と同い年くらいの、整った顔の男の子が僕を見つめて微笑んでいた。
「えっと、あの…」
「別の席で見てたらすごい可愛い人がいると思って、すっ飛んできたんです。おひとりですか?」
よく見ると、手にハンバーガーを乗せたトレイを持っている。少年は、話しながら僕の前の席に座ろうとするので僕は焦った。
「あ、あの…そこは…」
恋人を待っていて、と言いかけてその響きに自分で一瞬照れる。その間に彼は正面に座ってニコニコ微笑むので、僕はますます焦った。彼は僕の手を取ってぎゅっと握った。
「いいですよね?」
彼は有無を言わせぬ強い瞳で僕を見つめて小首を傾げた。
「や、その…僕」
手を握られるなんて思っていなかったから僕は動転した。その時、彼が何かに気づいたように目を見開いた。
「あれ?ジミンさん?ジミンさんですよね?」
「へ?そう…ですけど…」
彼の口から自分の名前が出てきて僕は心底びっくりした。
「ジミンさん、僕、ムホです。覚えてませんか?」
ムホと名乗る少年はますますにこにこ笑って手をぎゅっと握ってくる。
どうしよう…僕、覚えてないや…
「えっと…ごめんなさい…」
「ほら、ヒョンドヒョンのいとこの」
ヒョンド…
ヒョンドは一緒にダンスチームを組んでいた友達だ。僕は記憶を手繰り寄せようと、じっとムホを見た。
「そっか、前遊びに行った時…」
ヒョンドの家に一度遊びに行ったことがある。ちょうどヒョンドの家に親戚が来ていて食事会をする日だった。そこでムホを紹介されたことをおぼろげながら思い出す。
「ふふっ…可愛い人がいる、と思って急いでやって来たら、ジミンさんだったなんてツイてるなあ」
「へ?」
ムホは僕を見つめて微笑んだ。
「初めて会った時、実はすごく惹かれてました。今日このままデートしませんか?」
僕…デ、デート中なんだけど…
混乱する僕に構わず、ムホは僕の手をぎゅっと握り直した。困った僕はレジの列の方、ジョングクを見た。ヒョンだからリードしなきゃとか思っていたくせに、弱気な自分に呆れる。ちょうどジョングクがレジの番で、店員さんと話していた。
ジョングク、早く来て…!