「ごめん!遅くなった!」
青いチェックのシャツと黒いパンツに身を包んだジミニヒョンだ。焦ってやってきたのか、頬が少し紅潮している。
このチェックのシャツ見たことないや…
可愛い…
「ううん…僕も、今来たばかりだから」
僕が、恋に落ちたたいていの男が言いそうなセリフを口にすると、ジミニヒョンは安堵したようにため息をついた。
「ごめん…何着ていけばいいか分からなくて…迷っちゃって」
「ふふ、僕もです…似合ってます」
チェックのシャツを見ながら言うと、ジミニヒョンは照れくさそうに笑った。
券売機で映画のチケットを払おうとしたらジミニヒョンに止められた。
「ヒョンに払わせて?」
僕より幼く見える顔で、にこ、と微笑んで顔を覗き込まれて、「いや、僕が」と言うと、「ダ、メ」と茶目っ気たっぷりにまた微笑まれて、思わず頷いてしまう。ジミニヒョンは嬉しそうに笑って支払いを済ませた。シアターに入って席につく。上映期間の後半だからなのか、意外とすいていた。
後ろの方のセンターに近い席で、ジミニヒョンは嬉しそうだった。
「映画見るの久しぶりだ…楽しみ」
「この前映画館で見たの何ですか?」
「えーっと…」
ジミニヒョンが言った映画のタイトルは、一年程前にリバイバルで上映されていたクラシックな恋愛映画だった。
恋愛モノ…
デートかな…
胸がちくりと刺して、僕はジミニヒョンを見つめた。ジミニヒョンはそんな僕の視線に気づいたのか、こっちを見てなぜか照れくさそうに笑った。
「あ…似合わないって思ってるだろ」
「いえ…」
「おばあちゃんが懐かしがって、見たがってたから一緒に行ったんだ」
おばあちゃん…
安堵する自分は、この人の過去に嫉妬していたのだと自覚する。
重症じゃないか、僕…
「てっきりデートかなって」
「ふふっ…デートで映画見るのは、初めて…」
ジミニヒョンはさらりと呟いたかと思うと、照れくさそうに身をよじる。ちょうどその時、シアターの照明が落ち、予告が流れ始めた。ジミニヒョンが予告に見入り始めたので、僕もスクリーンの方を見た。
暗いところで、ジミニヒョンといると思うと…
変な気持ちになりそうなんだけど…
僕らの周りには人がまばらで両隣も後ろの席も誰もいなかった。ジミニヒョンの横顔をちらりと盗み見る。じっとスクリーンに見入る様子にドキドキした。
人がいないとは言え、いきなりこんなところでキス…はだめだよね…
せめて触れたいな…
僕は、肘掛けに置かれたジミニヒョンの手にそっと触れて、きゅ、と包み込むように握った。ジミニヒョンが僕を見る。真剣な表情にどきりとした。
あ、ダメだったかな…
映画、集中して見たいよね、きっと…
僕がそう思って手を離そうとした時、ジミニヒョンの、もう片方の手が僕の頰に伸びた。
え…
次の瞬間、僕はジミニヒョンに引き寄せられて、唇を重ねていた。