唇を、重ねるだけがキスだと思っていた。
ジョングクの帰った後、寝支度を整えてベッドに横たわると、自然と指先が唇に触れる。柔らかいその場所に、ジョングクの唇が押し当てられて、その後彼の熱が忍び込んできたことを思い出す。重なる濡れた熱の感触が蘇って、頭がくらりとした。
あんなキス、あるんだ…
僕、やっぱり全然わかってなかった…
『じゃ、もっかい…します、ね』
ジョングクの囁く声を思い出す。『もう一度』だなんて、ジョングクは嘘つきだ。全然違うキスだったんだから。
おばあちゃんが声を掛けて来なかったら…
もう一度、あのキスをしたんだろうかと考えるとドキドキした。実際、僕はもう一度キスしたかったからだ。
ジョングクも…同じ気持ちだったのかな…
だから、デート…
お風呂から上がってスマホを見ると、ジョングクからメッセージを受信していた。
『今日は会えて嬉しかったです。そしてジミニヒョンと恋人になれて本当に嬉しいです。』
『お店であんなことしちゃってごめんなさい』
『我慢出来なくて』
『日曜日、お店お休みですよね?映画見に行きませんか?』
一文読み進めるごとにドキドキして照れくさくて、つい「アベンジャーズ見たい」というだけの簡素なメッセージを送ってしまい、少し後悔した。だけどジョングクからは、「アベンジャーズ、いいですね!僕も見たい!やってるとこ探しておきます!」とすぐ答えが返ってきた。
よく考えたら、僕、ヒョンなのに…
リードしてあげなきゃいけないんじゃないだろうか…
ジョングクが僕を抱きしめる腕の強さを思い出しながら、僕は眠りについた。
Side JK
初めてのデートの日、待ち合わせは映画館にした。本当は、僕がジミニヒョンのお店に迎えに行きたくて、そう言ったのだけど、ジミニヒョンが『待ち合わせしたい』と言ったから、待ち合わせをすることにした。
確かに、待ち合わせってなんかドキドキする…
早めに着いて、わかりやすいようにロビーの柱の前に立っていると、落ち着かない気持ちになった。
服、変じゃなかったかな…
無地のシャツにジーンズという至ってシンプルないでたちだったが、普段、制服とテコンドーの道着くらいしか着ていないから不安になる。その時、映画館のロビーの入り口から、小走りで駆けてくる人影が目に入った。