Side JK
「ジョングガ…」
僕はいつかの時と同じように、ジミンさんの手を引いて、ジミンさんのお店に向かう路地を歩いた。木々に囲まれた小さな公園の前で立ち止まる。
「まだ…時間ありますか?」
「ん?」
「あの…お餅…一緒に食べたくて…」
ジミンさんは腕にはめた時計にちらりと視線を落としてから、また僕を見て微笑んだ。
「うん…そうだね、まだ大丈夫」
僕はジミンさんの手を握ったまま公園の中に入った。夕焼けの日が落ちる小さな公園には、遊具もないせいか人気がない。いくつか設けられたベンチの一つに腰掛ける。
「えっと…じゃあ、改めて、これ…」
ジミンさんが手に持ったままの箱を差し出した。きれいにかけられたリボンが目に入って、胸がどくん、と音を立てる。
「あ、ありがとうございます…開けていいですか?」
ドキドキしながら聞くと、ジミンさんは恥ずかしそうに笑って身をよじり出した。
「いいけど…もう…なんか、恥ずかしい…」
両手で口を覆って恥ずかしがるジミンさんが可愛すぎてずっと見ていたかったけれど、中身の気になった僕はリボンをするりと解いた。包装紙を取って、蓋を開ける。
「わ…」
ハートだ…
中から現れたのは赤やピンクや黄色など、色とりどりのハート型の小さなお餅だった。
「これ…」
僕は感動して小さく呟くと、ジミンさんを見た。ジミンさんの頬はどんどん染まっていく。
「あ、あの、ほら!その、えっと…ダンス楽しくて…僕をまた踊らせてくれてありがたくて…お礼の気持ち…伝えたくて…」
「すごい…可愛い…」
僕は呟きながらハート型のお餅を一つ摘み上げた。ぷっくりとしたお餅は艶々していて、とても美味しそうだ。
「食べていいですか?」
「うん…」
口に入れるとモチモチした食感と柔らかな甘さが広がる。
「美味しい…すごく」
「ホント?よかったぁ…こんな形の、初めて作ったから」
初めて…
ジミンさんの言葉一つ一つに胸が熱くなる。
「ありがとうございます。ジミンさんも一緒に食べましょう」
僕がお餅の箱を差し出すと、ジミンさんはこくりと頷いて箱に手を伸ばした。ジミンさんの白い指先が餅粉のまぶされた赤いハートをつまむのを、ドキドキしながら見守る。口元へ運ばれたハートのお餅が、ジミンさんの唇の中に消えていくまで、目が離せなかった。
やばい…もう、気持ちが…
「あ、美味しい…さすが僕だなあ」
ふふっ、と茶目っ気たっぷりに笑うジミンさんの手首を握った。お餅の箱を僕の膝からベンチに移す。
「へ?」
「餅粉、付いてます」
「ああ…」
僕が目で示したジミンさんの人差し指には餅粉が付いていた。
「あ、ジョングガ…」
ジミンさんの手を包み込むようにして握って、口元へ近づける。ちゅ…と人差し指に口付けすると、ジミンさんは真っ赤になった。僕はゆっくりと手を離して、ジミンさんの頬を手のひらで包んだ。ジミンさんの瞳はぼんやりと潤んでいるように見えた。
「ここにも…」
本当は餅粉なんてついていないジミンさんの頬に唇を寄せる。ちゅ、と唇で触れると、お餅みたいに柔らかい頬の感触に頭が沸騰しそうになった。
「ジョング…ぁ…」
名前を呼ばれるのも待たず、僕はジミンさんの唇を塞いでいた。