それからジミンさんは2日と開けずテコンドー部を訪ねてくれるようになり、舞を見てアドバイスをくれた。
僕にとっての誤算は、チス先輩のダンスがからきしダメだったことだけでなく、優しいジミンさんがチス先輩の世話を焼いてくれることだ。ジミンさんは2回ほど見ただけで振り付けを完璧にマスターし、動きのうまくできないチス先輩に体育館の端っこでつきっきりで教えてくれた。チス先輩の手を取り、ダンスの形を教えているジミンさんを見ていたら羨ましくなって、わざと踊れないフリをしようかと思ったくらいだ。しかし、皆で集まって踊る通し稽古の後、ジミンさんは必ず僕のダンスが上手いと褒めてくれた。その時のキラキラした瞳を見ると嬉しくて、わざと踊れないフリをするなんて出来なかった。
テコン舞の披露が明後日に迫った日、ジミンさんも練習に付き合ってくれていたが、すっかり長引いてしまい、帰る頃には外は暗くなっていた。体育館の入り口で帰る用意をしていたジミンさんに、慌てて声をかける。
「送っていきます」
ジミンさんは振り向くと僕を見て微笑んだ。
「いいよ、遠回りだろ?」
僕は首を振って体育館のガラスのドアを開けてジミンさんを先に通した。外は真っ暗だ。
「暗いし心配です」
細い路地裏の道を隣に並んで歩き出すと、ジミンさんはくすくす笑った。
「暗いったってまだ7時だし…僕男だし、大丈夫だよ」
「関係ないです。ジミンさん…可愛いから」
僕が怒ったように言うと、ジミンさんは僕を見て、暗い空の下でもわかるくらい真っ赤になった。
「か…可愛い?」
「可愛いです」
立ち止まって僕を見上げるジミンさんに微笑むと、ジミンさんは口を尖らせた。
「どっ…どうせ身長低いよっ」
ふふ…そういう意味じゃないんだけど…
「そんなふうに拗ねるところも可愛いです」
にこ、と微笑んで歩き出すと、ジミンさんが付いてきた。僕は諭すように話を続けた。
「それに、ジミンさん、配達途中でお客さんの家に連れ込まれそうになってたじゃないですか」
僕らが出会った時のことだ。
「連れ込まれって…そんな…」
「連れ込まれそうだったでしょ」
自覚がなさそうなジミンさんに怒った顔を作って強めに言うと、ジミンさんは困ったように、「はい…」と素直に答えるから、僕は噴き出した。
「だから、気をつけないと」
「うん…ありがとう。ジョングクがいれば安心だ」
ジミンさんはにこ、と邪気なく微笑んだ。
うう…
ある意味、僕が一番信用ならないのに…
僕は自分が今ジミンさんにしたいことを頭に浮かべて悶々とした。抱きしめたい。ふたりきりになって、ぎゅっと抱きしめて、それで…
「でも、ホントに、ジョングクならすぐ飛んできてくれそう」
ジミンさんはそう言うと、くすくす笑った。
「チスは…もしかしたら飛んで来れないかも…」
何かを思い出したのか、ジミンさんはくすくす笑い続けた。