皆とホテルに戻り、自分の部屋に戻ろうとしたら、テヒョンが着いてきて、俺は思わず、周りに誰もいないのを確認してから噴き出した。テヒョンは口を尖らせて、俺を見下ろした。
…仕方ない…風呂は後で、かな…
部屋に入ると、案の定テヒョンに抱きすくめられた。
「今日は…ユンギヒョンのお風呂、待てないです…」
「あ…」
ぎゅっと抱きしめられると、テヒョンの不安だった心が伝わってくるようだった。俺はテヒョンの、いつのまにか大きく成長していた背中に手を回して撫でた。
「ユンギヒョン…」
テヒョンの大きな手に引き寄せられる。眉を寄せたテヒョンの顔が近づいてきて俺は目を閉じた。温かなテヒョンの唇に、唇を塞がれる。
あ…すげぇ安心、する…
不覚にも泣きそうになって、こらえようとして「ふ」と吐息が漏れる。テヒョンは俺の頰を手のひらでしっかりと包み込んで、角度を変えて口づけを繰り返した。
「っ…ぅ…」
俺は目を開けた。頰に落ちてきた雫がテヒョンの涙だと気づいたからだ。
「泣くなよ」
そう言った俺の言葉も震えていて、テヒョンは笑った。
「ユンギヒョンだって」
そう言うとテヒョンは涙に濡れた瞳でにこっ、と笑い、俺の目に滲んだ涙を指先で拭う。俺が微笑むと、テヒョンは嬉しそうに笑い、俺の手を引いてベッドへ連れて行った。手を引かれる感じに既視感を覚えて、それがなぜか嬉しかった。ベッドへ座るとテヒョンはまた俺をぎゅっと抱きしめた。
「よかった…無事で…」
テヒョンの声はかすれていて、体の底から絞り出されたみたいだった。それを聞くと、自分では抱えきれないくらいの愛おしさがこみ上げてきて、俺は戸惑った。
「もう会えないかと思って、怖かったです…」
テヒョンは俺の頰を両手で包んでじっと目を合わせてから、片手ですりすりと俺の頰を撫でた。
「ん…」
そうやって、テヒョンのものとして扱われると、ヒョンとしての威厳とか、立場は関係なくなって、ただただ好きだ、という思いだけが湧いてくる。
「怖くなかったですか?連れていかれた時」
「ん…怖かったのは、お前が連れていかれることだったから…」
俺は素直にそう言った。たちまちテヒョンの瞳に大粒の涙が溢れる。俺がテヒョンを抱き寄せると、テヒョンも俺をぎゅっと抱きしめた。
「ユンギヒョン…俺のそばにいなきゃだめなのに…」
「ん…今は、いるだろ?」
髪を撫でながらあやすように言うと、テヒョンは笑った。
「嬉しいです…」
そう言うとまた俺を腕の中に抱きしめた。
あったけ…
ほうっと息を吐く。俺たちはしばらくそのままで互いの体温を感じていた。
「もうずっと…こうしてたい…」
テヒョンが俺の背中を撫でながらしみじみと言う。
「珍しいな、テヒョンが俺の部屋に来て、シないなんて」
俺がニヤリと笑って揶揄するように言うと、テヒョンは慌てたように声をあげた。
「違いますっ…もう、意地悪なんだから…」
テヒョンは俺の顎に手をかけて俺を上向かせた。
「それとも、抱いたら…ダメなんですか?」
真剣な表情にどきりとした。俺は首を振った。
「俺は…シたいけど」
口に出した瞬間、頰が熱くなった。テヒョンの顔がぱあっと明るくなる。
花が咲いたみたいだな…
テヒョンの口づけを受けながら、この花をずっと守ろう、と心に決めた。
