Side NM
ジョングクの運ばれた病院から宿泊先のホテルへ戻る。皆はすぐめいめいの部屋に戻って行ったが、俺はなんとなく一人でぼんやりしたくなって、ロビーラウンジの窓際のソファに座った。真夜中のロビーラウンジでは静かにお酒を飲む人たちが数人いるくらいだ。すぐにホテルのスタッフがにこやかに飲み物を聞きにきた。オーダーしてソファに身を沈める。
今日は疲れたな…
その時、誰かが近づく気配がして、顔を上げた。
「ホビ…」
ホソクが俺を見てにこ、と笑うと、向かいのソファに座った。
「ジョングクに…連絡したんだって?」
ホソクはそう言って、優しく微笑んだ。途端に数時間前のことが蘇る。ジョングクに、皆とは別のホテルに、ジミンと一緒に泊まると伝えた。そうしないと先に進めないと思ったからだ。俺も、ジョングクも、ジミンも。
ホソクに頷いてみせる。
「…そのままジミンと泊まっちゃえばよかったのに」
「まあ…普通そうだよな…」
好きな奴を落とそうとしている時に、別れていたとは言え恋敵を呼ぶなんて。ホソクの微笑む瞳がそう言っていた。
「そういうお前が好きだけどな?」
ホソクがそう言ってくれてありがたくて、俺も微笑んだ。
「ありがと」
俺が短く礼を言うと、ホソクは小さく笑った。
「…ウリリーダー、わかってないようだから教えてあげるけどさ」
ホソクは身を起こして、俺の方へ顔を近づけた。
「へ…」
ちゅ、とかすめるような一瞬の、頰へのキス。ふふ、と照れくさそうに笑うホソクの顔を見ながら、俺は事態がわからなくてぽかんとした。
「さっきの『好き』はこういうこと、だからな?」
ホソクは言い終わると立ち上がった。バーカウンターからスタッフが飲み物を持って近づいてくる。
「『捨てる神あれば拾う神あり』だよ〜♪」
ホソクは日本語でそう言うと、すれ違い様に、まだぽかんとしたままの俺の肩をぽんぽんと叩いて、軽い足取りで去っていった。スタッフが遠慮がちに俺のテーブルに飲み物を置いて去っていく。
いや、捨てられた訳じゃないし…
日本語の意味を頭で組み立ててから、俺はにや、と笑った。
拾う神、か…
俺は「おやすみ」を言いたくて、スマホの中の「希望」のメッセージスレッドをタップした。