高級なホテルだから、走ってはいけないと思っていたのに、気持ちが焦ってロビーを横切る時に小走りになる。エレベーターに乗り込み、最上階を押してから、どうやって話をするのか全く考えがまとまっていないことに気づいた。ジミニヒョンと恋人になる前、ずっと片思いをしてた時も、伝えたくてたまらなかったのに何て言えばいいかわからず、なかなか伝えられなかった。でも今は、伝え方がわからなくても伝えなければいけない。何もしないで、他の人のものになんて、なって欲しくなかった。
エレベーターを降りる。すぐに、豪華なバーの入り口があり、黒服の男性スタッフがやってきた。事情を身振り手振り話すと、奥のテーブルを示された。まず見えたのはナムジュニヒョン。その奥にジミニヒョンが座っているのが見えた。途端に胸が騒ぎ出す。店員さんにぎこちなく笑顔を作って、2人のテーブルに近づいてゆく。脅迫の手紙のことは頭にあったから、テーブルに近づく時に、怪しい人がいないかちらちらと確認した。
2人はちょうどバーを出るところらしかった。立ち上がり、荷物をまとめている。立ち上がったジミニヒョンが全面のガラス窓にぴったり張り付いて下を覗き込むのが見えた。そこに寄り添っていくナムジュニヒョン。僕の足は自然と早くなった。
「ヒョン…」
2人に声をかけると、2人とも振り返ってびっくりしたように目を丸くした。
「ジョングク…」
「ジョングク、来たのか…」
2人は並んで立っていた。ジミニヒョンの顔が曇る。それを見たナムジュニヒョンが、心配そうな顔でジミニヒョンの背にそっと手を回した。
「ナムジュニヒョンから、今日、ジミニヒョンと泊まるって聞いて…」
僕が切り出すと、ジミニヒョンは目を見開いて驚いた表情をした後、眉を寄せて「それは…」と言いかける。僕はその先を聞きたくなくて、必死で話した。
「うまく言えないけど…とにかく、2人で泊まってほしくなくて…ナムジュニヒョンのことは大好きだし、尊敬してる…でも」
一息に言って、僕は一歩ジミニヒョンに近づいた。ジミニヒョンは瞳を潤ませて僕をじっと見つめていた。
「あんなこと言って…今更元の通り戻れるなんて思っていないけど…身勝手だけど、これだけは伝えたくて…僕は…」
拳をぎゅっと握った。
「ジミニヒョンを愛してる。誰にも渡したくない」
言い終えた瞬間、ジミニヒョンの瞳から涙がぽろぽろ溢れてきた。それを拭いたくて、また一歩ジミニヒョンに近づいた瞬間、入り口から切羽詰まった叫び声が聞こえた。
「ジミン!伏せろ!」
僕が咄嗟にジミニヒョンを抱いて床に押し倒したのと、聞いたことのない大きな鈍い「ガーン」という音がフロアに響いたのはほぼ同時だった。
