ジョングクがオリエントホテルに発ってすぐ、テヒョンも自分の部屋に戻ると言って部屋を出て行った。俺はしばらくホソクと食事をしていたが、マネージャーのソジュニヒョンと打合せの予定があったのを思い出した。ソジュニヒョンの部屋に呼ばれていたのだ。
「すまん、ソジュニヒョンと少しだけ打合せしてくる。ここで食べてていいよ」
「わかりました。でも部屋に忘れ物したので後でちょっと自分の部屋に戻るかも」
俺は部屋のカードキーとスマホだけ持って、部屋を出て、隣の部屋の呼び鈴を押した。ソジュニヒョンは隣の部屋に泊まっている。
「ああ…ジン。今日はもう忘れてて来ないのかと」
ソジュニヒョンはドアから体をのぞかせると、俺を認めて大きな体に似合わない小さな目を見開いた。
「ごめんなさい…食事を取り始めたらすっかり忘れてて…」
「さっきジョングクの車の手配したとき、たぶんそうなんだろうと思ったがな」
ソジュニヒョンの部屋に入る。廊下を歩いて、すぐに違和感を感じた。いつもは整頓されているソジュニヒョンの部屋がなんだか散らかっていた。段ボールやカバンがいくつか、床に投げ出されている。
「なんか変な時に来ちゃったんですね。ごめんなさい」
「ああ…かまわん」
その時、呼び鈴が鳴り、ソジュニヒョンはドアの方へ戻っていった。その時、床に置かれたカバンの開け放たれた中身にふと目が止まった。
え…
これって…
銃…⁈
無造作にカバンに突っ込まれたそれは映画でよく見る形をしていた。黒く光る銃口を認めて、俺は急速に体が冷えていくのを感じた。
「ソジュニヒョン…これは…」
振り返りながら、震える声で、ソジュニヒョンへ声をかける。俺の指す方を見て、目を見開くソジュニヒョンと、その後ろに、今部屋へやって来たのか、ユンギとテヒョン。
「わっ!!」
「動くな」
ソジュニヒョンは瞬く間にテヒョンを羽交い締めにすると、低い声で唸るように言った。その手には銃が握られており、銃口はテヒョンのこめかみへ向いている。
なんてこと…
俺は俺の足元の床に置かれたカバンをちらりと見た。銃はまだそこにあった。彼が、手持ちで1つ隠し持っていたということだろう。
「ジナ、そのカバンから離れろ。ユンギ、お前はジンの近くへ行け」
ユンギは捕らえられたテヒョンを心配そうに見つめて唇を噛んだが、頷くと、こちらへ近づいて来た。
「ユンギ、そこの段ボールにロープが入ってる。それでジンの足と自分の足を縛れ。終わったら手首だ」
ソジュニヒョンの声は冷静だった。俺は力なく呟いた。
「ソジュニヒョン、なんで、銃なんか…」
まだ信じられなかった。
「余計な詮索はいい。早くしろ」
ソジュニヒョンは段ボールを脚で蹴ってこちらへ寄越した。そのとき、ユンギが一歩前に出てソジュニヒョンに近づいた。
「ちょっと待ってくれ。俺が人質になるからテヒョンを離してくれ」
「何?」
「ユンギヒョン、だめ…」
それまで何も言葉を発さなかったテヒョンが眉をぎゅっと寄せ、ユンギを見つめて首を振った。