相談って、なんだったんだろ…
名前を呼んで欲しいとせがまれたから、身体が結ばれてからもしがみついて何度も名前を呼んでいたのが、テヒョンに火をつけたみたいだった。俺を散々抱 いて、あやして、啼 かせた挙句、何度目かの後、とうとうテヒョンは満足そうに寝てしまった。
気持ちよさそうに寝ている寝顔の頰を指先で押すと、「ん…」と吐息を漏らして身をよじる。
こんなでかい図体の奴が、自分のベッドに寝ていても、邪魔だと思わなくなるなんて…
それどころか…
まだあちこちにテヒョンの感触の残る体を、俺は自分で撫 でた。
こんなに、大事だと思うなんて…
大事なのは音楽だけだと思っていた時期があった。音楽は裏切らない。音楽は俺が離さない限り去っていかない。しかし、人間は裏切る。こちらの思いに反して、去っていくことだってある。二度と会えなくなることだってある。
だけど…
テヒョンに抱きしめられる時の幸福感は俺を混乱させた。こんな幸せがあるということに初めて気づいた瞬間だった。
テヒョンを失ったら、嫌だな…
すげぇ嫌…
今、そんなふうに思う自分は、なんだかちっぽけで可愛い、と俺は思った。テヒョンといる幸せを噛み締めながら、別れに怯えてる。これが、人間を愛するということなんだ。
次の日、目覚めて俺の部屋でルームサービスの朝食を取っていたテヒョンから、ジョングクへ届けられた手紙の画像を見せられた俺は顔をしかめた。
2人に起こっていたことはこれだったのか…
手紙の画像をまじまじと見る。韓国語だ。自然体の書き文字ではなく、印刷の文字に似せて書いてあるように見えた。止めるところはきちんと止め、払うところはきちんと払われた文字からは几帳面そうな印象を受ける。
「どうやってジョングギに届いたんだろう」
「わかんないです…グギには聞いちゃいけない気がして…とりあえずユンギヒョンに言おうと思って」
「…ん」
信頼されている感覚がくすぐったい。俺はその感覚を振り払って画像に集中した。
「内部の人…ですかね…」
「う……ん…」
おそらくそうだろうと思ったけれど、テヒョンの声が悲しそうで、俺はすぐに肯定できなかった。
「うーん…出来ることからやるしかないか」
「どうするんですか?」
俺はテヒョンにスマホを返した。
「残念だけど、おそらく内部の犯行だろう。俺がスタッフの一覧を用意するから、実際に筆跡を確認しよう…とりあえずその画像俺にも送って」
テヒョンは神妙な顔になって頷くとスマホを操作しはじめた。すぐに画像が届く。
「誰か他に言いますか?」
「…悩ましいな」
俺はスマホに送られてきた手紙の画像をもう一度見た。
このことを誰にも言うな
誰かに言えばジミンを殺す
この手紙の主を探そうとするな
探そうとすればジミンを殺す
「この手紙のこと、俺以外に言ってないよな?この写真を撮ったとき、他に誰かいたか?」
俺の質問にテヒョンは頷いて、そのあと首を振った。
「ジョングクがこれを読んで何も言わずジミンと別れたのは、本当にジミンの身の危険を感じたからだよな…きっと」
テヒョンが何か思い出したように目を見開いた。
「そういえばこの前、ジミンの車…」
「そうか…あれ、ジミンだけだったな…」
街の中でジミンの車だけが男達に囲まれた。
前後に他のメンバーの車が連なっていたのにもかかわらず、だ。
「やはり内部の犯行だろうな…とりあえず今は誰にも言わない方がいいだろう」
俺が呟くと、テヒョンは眉を寄せた。暗い顔になるテヒョンの頭を俺はわしゃわしゃ撫でた。
「お前が泣きそうになってどうすんだよ」
大きな目に涙をにじませるテヒョンを俺は抱き寄せた。面倒くさい、と思いながらも、テヒョンのこういうところを好きな自分も自覚していた。テヒョンには、2人がこうなったこと、その原因がもしかしたら知っている人間にあることが堪えるのだろう。
「よし、お前の演技のスキルが問われんぞ。何食わぬ顔して、あやしい奴の筆跡を確認するんだ」
彼の方がでかいせいで、はみ出してはいたものの、俺の腕の中で、テヒョンはこくりと頷いた。この純粋で、繊細な青年を自分が守ってやりたい、と強く思う。
「できるか?周りには秘密にして、調査」
顔を覗き込むようにして聞くと、テヒョンは黙って頷いて、俺を抱きしめ返した。