Side Y
テヒョンの手…なんか気持ちよかった…
制止の声も聞かず、テヒョンが出て行ったドアを見ながら俺はぼんやりと考えた。頭が重く痛いけれど、テヒョンの手は大きくてひんやりしていて、心地よかった。
テヒョン、なんの話だったんだろ…
あいつ、張り切って出て行ったけど、料理できんのかよ…
元気なら、すぐに「やめておけ」と止められるのに…と考えて、元気ならテヒョンも作るなんて言ってないだろう、と思い至る。相当熱がキてるみたいだ。しかし、テヒョンが料理をひとりでうまく作ったことなんてあっただろうか。
大丈夫かな…
リスでも出てこなきゃいいけど…
自分の考えに、「ふ」と鼻先で笑っているうちに、俺の意識はだんだんと眠りへと潜り込んでいった。
目覚めた時には、心配そうに俺を覗き込むテヒョンの顔が見えた。
「ユンギヒョン、起きた」
俺と目があった途端に嬉しそうに笑うテヒョンにドキドキした。
俺は頭の中で結論を出すと、サイドテーブルに目をやった。
「あ…作ってくれたのか」
テーブルには鍋や椀が置かれていた。
「お粥作りました…ちゃんと食べないと」
鍋のふたを開けると美味そうな香りが立った。
ぐうぅぅ。
俺の腹から、盛大な音が聞こえてきて、俺は慌てて布団の中で小さく身を固めた。
「ふはっ…ヒョン…」
テヒョンは面白そうに笑って、俺は頰が熱くなるのを感じた。
「よかった、食欲あるみたいですね…起きられます?」
俺が頷くと、テヒョンは丁寧な手つきで俺を抱き起こして、ヘッドボードにもたれさせた。そして意外と手際よく傍らの鍋から椀へ粥をよそう。テヒョンがスプーンに一口乗せて、俺の口元へ差し出した。
「あーん、してください」
にこ、と笑うテヒョンに、そのまま口を開けてもよかったのだけど、急に恥ずかしさがこみ上げてためらった。
「いいって、自分で食える」
「ダメです。あーん」
テヒョンはにこにこしてスプーンを差し出したままだ。
「ずっとここにいたらお前、風邪うつんぞ…」
最後の抵抗をこころみるものの、テヒョンはにこにこしたまま、スプーンを差し出している。
…あーっ、もう!
思い切って口を開けてテヒョンが差し出すお粥をぱくっ、と口の中へ入れる。思いのほか美味い。
「うま…」
「ほんとですか⁈ 」
驚いたように言うから、俺は少し笑って言った。
「味見してないのか?」
「し…しました、しました」
慌てて笑いながら否定するテヒョンが面白い。テヒョンは2匙目をすくってまた俺に差し出した。
「急いで作ったから、心配で…はい、あーん」
しかし、ずっとこれで食べさせるつもりなんだろうか…
なんだか気恥ずかしくて、半ばやけくそみたいな気持ちで俺はテヒョンが差し出してくれる2匙目を口に入れた。テヒョンが首を傾げて口を開く。
「あの……どんな、味ですか?」
やっぱり味見してないんじゃん、と笑って抗議しようとした時、テヒョンの彫刻みたいな美しい顔が瞬く間に近づいてきて、俺の唇をためらいもなく、塞いだ。