Side JK
僕が「それ」に気づいたのは、ジミニヒョンがリハーサルでソロで踊っている時のことだ。ジミニヒョンが踊るのに邪魔だからとカーディガンを脱いだら、その下に着ていた薄い白シャツの下に何か線が見える。
二本の紐が…前も後ろも…
タンクトップではないことは明白だ。僕はジミニヒョンのシャツの下を自分でも気持ち悪いくらい凝視した。
も、もしかして…
下 着、だったりすんのかな…
前の二本の紐は下へ行くほど幅が狭まって中心部へ集まった後、ズボンの縁に消える。後ろの二本も同じだけど、ズボンの縁に消える時には一本になっているように見えた。僕はその先を想像して、ごくりと生唾を飲み込んだ。
ジミニヒョンがあんなの着けてるの、初めてだ…
なんで?
…踊るから…なのかな?
たまにファンの方から、ダンス用のアイテムをもらうことがある。動きやすさを重視したトップスやボトムス、インナーなど。ジミニヒョンも、そういう類でもらったものを試してみたのかもしれない。だけど、白いシャツの下に透ける黒い細い紐が、ジミニヒョンの色白の 肌 に 食い込む様を想像すると、最近頑張って封じ込めていたジミニヒョンへの欲 望 が、爆発しそうに感じた。
どうしよ、僕…
今すぐふたりきりになって、
あの…上に着てるシャツ、脱 がしたい…だなんて…
リハーサルの後の控え室での打ち合わせで、僕はさりげなさを装いながら、ジミニヒョンの横をキープして、ちらちらとジミニヒョンを観察した。再びカーディガンを羽織ったから背中からは見えなくなったけど、注意深く見ると、シャツの襟の隙間から細い黒い紐が見えた。
うう、なんか…
たぶん、いや、きっと、すごく…
…すごく、工ロいんだけど…
僕がその姿を想像して内心悶えていた時、ドアが開き、会社のスタッフと、幾人かの見知らぬ男性達が入って来た。
「ヨーロッパの音楽通が皆読んでいると言われている雑誌『VOICE』のクォンさんとユンさん、カメラマンのジェイクさんだ。今回のライブの取材をしてくださる予定になっている」
スタッフから紹介された3人のうち、クォンさんとユンさんは、名前と、流暢な韓国語を話すことから、韓国人のようだった。クォンさんとジェイクさんは40代くらいの男性で、どちらもすごく背が高い。ユンさんはまだ若くてクォンさんのアシスタントのような感じだった。ユンギヒョンとナムジュニヒョンはその雑誌のことを知っているのか、感激した様子だった。メンバー全員と握手して挨拶すると、皆はローテーブルを囲んでソファに座り、ステージの取材の段取りについて打ち合わせが始まった。
何かおかしいな、と思ったのは、打ち合わせが終わって、くつろいだ雰囲気の中、皆で雑談している時のことだ。クォンさんはジミニヒョンの隣に座っていたのだけど、いつのまにかすごく距離が近くなっていた。顔をジミニヒョンに寄せて囁くように何かを話している。向かい側に座っている僕には聞こえなくてじれったかった。ジミニヒョンが褒められたのか、両手で口元を覆って、「へへ…」と笑うのが見えた。そうすると、クォンさんはジミニヒョンのその手を取ってぎゅっと握ると、ジミニヒョンをじっと見た。
あ…
大柄なクォンさんのつぶらな目が、ジミニヒョンの開いたシャツの襟の奥に向けられているのに僕は気づいた。
あの人も、あの下 着 に気づいたんじゃ…
ジミニヒョンは両手を取られてびっくりしたのか、きょとんとしたままかすかな微笑みをたたえ、話を続けるクォンさんの顔を見ている。僕はもどかしくていらいらした。
何を言われたのか知らないけど、
そんな奴の手、振り払っちゃえばいいのに…
いらいらする僕の目の前で、クォンさんはジミニヒョンの肩や胸筋を確かめるようにベタベタと触りだした。
「やっぱり、すごく鍛えてるんだね」
「そうですか?…昔はもっと腹筋があったんですが」
2人の声が少し大きくなって聞き取れるようになった。クォンさんはそれを聞くと「腹筋触っていいかい?」と尋ね、ジミニヒョンの答えを聞かずに腹のあたりをシャツの上から触った。
あ…下 着、確かめてる…?
クォンさんの触り方が、シャツの下の下 着 の紐を確かめているように感じられて、僕は黙っていられず口を出した。
「ジミニヒョンだけじゃなく、みんな鍛えてますよ」
「おお、そうなんだ、触らせてもらっていいかい?」
クォンさんはにこにこ笑って、ソファから立ち上がって、手を伸ばしてきた。僕は仕方なく、立ち上がった。クォンさんが僕の腹筋を確かめている間、僕は顔をしかめてジミニヒョンをちらりと見た。「何触らせてんの」という思いを込めたつもりだったけど、ジミニヒョンは「ん?」とでも言いたげに首を傾げて軽く微笑んでいて、僕は脱力した。
隙だらけなんだってば…