LIFE AQUATIC -2ページ目

LIFE AQUATIC

人生は海だ!!

車は快調に川湯温泉を目指していた。


ストレスがなくなり、車内は俄然、和やかなムードだ。


時刻は9時過ぎ、そろそろ腹も減ってきた。



「なあ、腹減った」僕は食いしん坊なのだ。


「どないしよか?とりあえず適当に店でもはいろか?」と石本が皆に、ほんでええやろ、な顔して言った。


「でも、コンビにみたいなんで適当に買ったほうが安ない?」と僕。


「せやな、この先あんまりいったら観光地になるから、店屋とか多分高いかもせんで」と直樹。


「まあ、とりあえず、あったら考えようや」と石本がくくった。



「あっこ、行ってみよか」佐藤が大きな橋を渡ってスグ右手にある1件の店屋を指差した。


「おう」石本が車線を斜めに移動しながら、店前の砂利の上に車を停めた。


「何ココ、駄菓子やちゃうん?」直樹がチラと店を覗きながら言った。


「でも、ラーメンとか売ってんで」と僕。


「ほな、ラーメン買うてお湯どうすん?」と石本。


「お湯くれへんかな?」と僕。


「お湯やったら、ええよ」と店の真ん中にいたオバアが突然しゃべった。


「なんやったら、奥で食べてってええよ」とさらにオバア。


「ええの?それやったら、早よ買おか」石本がカサカサとラーメンの袋を漁りながら言った。


「これ、オレ昔、箱買いしたで」と直樹が、ボタンを押すと出てくる10円の丸いガムの箱をつついていた。


「あ、これ、オレいっちゃん好物や」とよっちゃんいかを片手にヨッシー。


「奥、ほんまにエエの?」石本がオバアに念押しするように聞いていた。


「ええよ、ポットあるからそこで食べ」とオバア。親切な田舎心が寝不足の頭にしみる。



奥のテーブルに座ると大きな瓶に、梅干や、ラッキョウが漬かっていた。


「コリ、コリ、コリ」石本は我が家のようにラッキョウを食べていた。


「ちょっと、古いな」勝手に食っといて文句である。


そのあたりは土間になっていて、奥にコタツとたんすとテレビがあった。


オバアはそのエリアで暮らしているようだった。


「なあ、あれなんなん?」とヨッシーがたんすを指差していった。


皆は”何や”とたんすを見た。


「”ハンコ”てシール貼ってる。あっこは”ホウキ掛け”って、シール貼ってる」とヨッシーが続けていった。


「うわ、”通帳”ってシールはってんで」と佐藤。


「盗んで欲しいんかな」と言いながら石本らっきょうの瓶を触っていた。


「几帳面やな」と僕。


「無防備やな」と直樹。



「もうすぐ、着くんやんな?」と僕は佐藤を見ながら言った。


「さっきの橋越えたから、もうスグやと思う」と佐藤。


「せやけど、めっさ時間かかったなあ」とヨッシー。


「うん、明け方の5時にはビレッジに戻るゆうとったのになあ」と僕。


コリコリコリ、石本がまたラッキョウを食べている。


「とりあえず、イコか」と僕。


オバアに別れを告げて、店を出た。


別れ際にオバアが言った。


「あのなあ、昨日まで大雨降っとったから、水多なってるかもせんから、気イつけや」と。



・・・・年寄りの言葉にはキチンと耳を貸すべきなのである。


我々は当時若かったのだ。まだ、21だったのだ。


見たいものと聞きたいものだけが、我々の知覚の限界だった。


そんな若者に、川湯温泉は決して優しくなどなかったのだった。。。



天笑降臨を掲げ、NEOというお笑いグループはLIVEを重ねていた。


石本・佐藤・直樹はそのメンバーである。


笑いに対して厳しく生きていた。


特に直樹はことさらアドリブに強い。ゲームはたいてい彼の一言で始まる。


「エロエロしり取りー、ェーーイ!」直樹が叫んだ。


・・・・こんなんが、結構続いてしまうのである。


「うーん、うーん、サかあ、さ、サ、さ、さ・・・」佐藤がうなっている。


「さー、さー、さー・・・・」力みすぎである。


「さ・さ・さ・・・・三杯酢!」出た。。。。


「グははははははははは」一同爆笑。


これしか、覚えていないが大体こんな感じで夜が明けてきた。


「もう、ネムイ」と僕。僕はワガママなのだ。


「ちょっと寝よか」と石本、こういうとき返事してくれるのはたいてい彼だ。



ちょっと寝たり、起きたり、皆が寝てるか気になったり、また寝たり。うつらうつらと2時間ほどたった。


ヨッシーは基本的に明るかったり、場所が変わったり、うるさいと眠れない人である。


「なあ、その辺ぶらつけへん?」


腰が痛くてぼんやりしている僕をみていった。


「いこか、タバコも吸いたいし」と僕にもたれながら熟睡中の直樹をのけながら言った。


カチャリ、スターレットのドアをそっと閉めて、表に出た。


ピリっとする寒さだ、田舎特有の蒼く透明な空気を胸に、ゆっくり入れる。


「さぶいなあ」と僕。


「あっちに川あるみたいやから、行ってみよか」とヨッシー。


なんとも、正しい田舎のガソリンスタンドの脇の川である。


「なあ、こっからどうやって行くん?」と僕。


「せやなあ、スタンドの人に聞いたほうがええなあ」ヨッシーが二本目のタバコに火をつけながら言った。


「全然、寝てないやろ」と僕。


「うん、ちょっと狭すぎるなあ」とヨッシー。


「そろそろ戻ろか?」とヨッシーがタバコを消しながら言った。


「あいよ」と川を後にした。



戻ると、車にはエンジンがかかっていて、もう給油は済んだようだった。


「ここは、ブラジルかもしれんなあ」と石本が直樹と佐藤に嬉しそうに話している。


「どないしたん?」と僕が分けが分からないので聞いても、


「ウォンかも知れん、それやったら、韓国やで!」と直樹が応える始末。


「なんなん!なあ、何があったん?」としつこく聞いたら、嬉しそうに教えてくれた。


「ウンー、ここのなスタンドでな給油したらな、2800!って言われてん。満タンで2800ッ!」


石本がもう、こぼれ落ちそうな笑顔で答えた。


「ほんでな、2800ですか?って聞いたら、2800!しか言わんから、直樹が2800個ちゃうか?と言い出して、いやいや2800gやろとか、2800人とか言い出して、多分お金やから、好きな通貨で支払おうって事になって、じゃあ、2800ペソなんか安いんちゃうかってな言うとったんや」


石本がしゃべってる間、直樹と佐藤は2800ルピーなどと言い合って、ゲラゲラ笑っていた。


我々はこのように、嘲笑する事が多い。


まあ、モラルで言うと良くないことだけれど、楽しいものはしょうがない。


「とりあえず、佐藤は車出してくれてるから、2800を4人で割って、一人700円を払いましょう」ということになった。


再スタートした。


道は、スタンドの人にちゃんと聞いたらしい、笑うだけ笑ったのにこういう所はちゃっかりしている。


ガソリンの不安がなくなったので、みんなご機嫌である。


「なあ、あとどん位なん?」と僕。


「あと、1時間くらいらしいで」と佐藤。


運転手が変わっていた。


石本が運転し、佐藤が助手席になっていた。後ろは相変わらず三角座りだ。



・・・川湯温泉は確かに存在する。


温泉は自然の産物である。真夏の海水浴、厳冬のスノボと同じである。


気温が低ければ海水浴も寒いのだ、雪がなければ滑れないのだ。


そんな事は、分かっていたはずなのだ、確かに分かっていたはずだったのだ。

最近ビルマーレーという役者にはまっている。


このブログのタイトルである、LIFEAQUATICも彼の主演作である。


LOST IN TRANSLATIONはアメリカ人男女の、つかの間の出会いの物語である。


場所はTOKYO。


パークハイアット上階からの東京の景色が美しい。



TSUTAYAではラブストーリーのジャンルに入っていたけれど、どうかなと思う。


私は心の動きを描いたヒューマンドラマの方が近いと思う。


恋心で片付けるには、人の心はもう少し複雑な気がする。



生きていく勇気をくれる人との交流に、たまに出会う。


何度もあった人でも、その場限りの出会いでも、そのようなことはある。


美しい笑顔はそのようなときに、生まれるのかなとこの映画をみて感じた。


「伝えられない、想い」が私のこのタイトルの訳だと、感じた。


LASTの数秒間は永遠に私の心に刻まれた。


非常によい映画にめぐり合えた思う。



ウサギに導かれたその行き止まりには、納屋と軽トラと自販機があった。


自販機の青白い光があたりを白々と浮かび上がらせていた。



「軽トラから、燃料、盗ろか?」と僕は言った。


「とりあえず、誰もおらんか確認したほうがエエな」と石本が周囲を見渡しながら囁いた。


「ちょっと向こう見てくるわ、ヨッシーいこか」直樹がさっと納屋の方に移動しながら、ヨッシーに声をかけた。


「うん、こっち軽トラみとくわ」石本が軽トラに近づきながら言った。


僕はなんとなく軽トラの扉に手をかけた、その扉は予想に反してぱっと開いた。


「うわ!開いた!」僕が思わず大きな声を出したので、給油口の辺りにいた石本が慌てて近づいてきた。


「あれ?この軽トラ鍵ついてんで、ホラ、ハンドルのとこ」石本に教えるように指を刺した。


「うーん、鍵かあ」石本は何か考えているように少し唸った。


「こっちに乗り換えようか?」と僕は思いついたまま言った。


「うーん、鍵なあ」石本はまだ低く唸っていた。僕のアイデアは全く無視された。


「これに乗って、下まで降りてガソリン買うて帰ってくるという方法かなあ・・・」独り言のように石本は呟いた。


「それか、盗むか!」まあ、我々の頭ではこのあたりにオチがつく。


とりあえず、給油口をあけてゴソゴソ。燃料の移し替えをどうするのか?何かいい道具はないか?


「なあ、なあ、軽トラって軽油なん?」僕は自動車の知識も免許もなかったから何気なく聞いてみた。


「うん?」石本の動きがピタと止まった。


「軽トラの軽って、軽油の軽かあ?」と石本。


「わからん、なんかそんな気がしたから」と僕


その時だった、


”ガコン、ピピピピピピ・・・・ブーーーッ!!”


谷のそこにある川音以外何も聞こえない筈の辺りに、気前よく電子音が鳴り響いた。


石本と僕は給油口の蓋を放り出しながら、直樹とヨッシーは何かを叫びながら、納屋の裏から飛んできた。


「なんや、どうしたんや!!」

佐藤が自販機の前でキョトンとしていた。


「ハズレやったわ」


その自販機はクジ付でそれの抽選音だったらしく、佐藤は残念そうに言った。


「・・・」言っても無駄やな、そんな空気をまといながら全員軽トラの前に集合した。


ウサギに導かれてきた先に、鍵がついた車が一台。


きっと、何か意味があるのだ!そんな風に考えてもおかしくない。


”シボッ、チリチリ、カチーン”直樹がZIPPOでタバコに火をつける。


それぞれタバコに火をつけ真冬の空に煙を吹き上げる。


「さぶいなあ」僕は寒がりなのだ。


なんとなく、夢から醒めたような気持ちになってくる。


「イコか」と佐藤。


「ガソリンはええか?」石本が佐藤に聞いた。


「え?いや取られへんし、もうええやろ」きっぱりと佐藤は言う。


彼はこのあたりの決め方がスパッとしている。


「とりあえず、さっきの道に戻って進めよか」石本は佐藤に並びながら呟いた。



車は再び山道へ戻った。


夢から醒めたように車内は静かになっていた。


しばらく行くと右手に光が見えてきた。


「町や」石本が確信に満ちて言った。


「佐藤、あそこまで何とかいけるやろ、スタンドしまっとったらそこで待つしかないな」石本が光を見つめながら言った。


町への案内板が出てきて、いよいよ何とかなりそうな気配になってきた。


道も下りになり、徐々に光も大きくなってきた。



あの時どれくらい、みんな焦っていたのだろう?


今となっては分からないけれど、僕は全くなにも怖くなかった。


おそらく無知ゆえと、仲間がいたからだろう。


あの頃の夜はもっと身近で親密だったように思う。



スタンドに到着したとき時刻はAM5時だったと記憶している。


スタンドが9時から開くから、あと4時間あるなと思ったからだ。


2月の夜は長く寒い。


我々は狭い車内から出ることも適わず寄り添うように待った。


そして、直樹のその一言でゲームは始まったのだった。


「あれ、なんや?」佐藤がいった。


「ちょっとスピード落として」石本がナゼだか抑えた声で佐藤に言った。


「ウサギや、野ウサギや」と佐藤。


野うさぎかどうかは定かではないけれど、確かに前方にウサギがいた。


ライトの反射により目を赤く光らせて、こちらを見ていた。


近づくと、ウサギは、ピョコタン・ピョコタンと跳ねながら、我々の前を跳ねて進んだ。


車はウサギが邪魔するので、ゆっくりしか進めない。幸い後続車がなかったので、ウサギにあわせた。


まもなく道が分岐するポイントについた。


ウサギは山側、進行方向、左の道を選択した。


「ウサギ左に行ってもたなあ、どうしよか?」と石本がウサギ追撃の同調を取るように言った。


「ついて行こか」と佐藤が、ついていくんでしょ的な感じで言った。


我々はガソリンの問題があったため、谷川へ行きたかったがウサギについていった。


ウサギはまだ、前方を案内するように跳ねていた。


「なんか、あのウサギ変じゃない?何か案内しているような感じなんやけど」と直樹が言った。


確かにウサギは、いなくなったかな?と思えば少し先で我々を待って、追いつくとまた先へと進めていた。


「うーん・・・ホンマやなあ。あれは、確実に我々をイザナッっとるな」石本が確信に満ちて言った。


そうだ、そうだと皆が納得した、夜の力に少し侵されているような感覚は続く。


しばらく、そのようなやりとりが続いた後、ふと、ウサギはわきへピョンと飛び、道から消えた。


それは、突然パッと掻き消えたように思えた。


そして、突然道が行き止まりになり建物が現れた。


視界がウサギ用になっていたため、誰も前に建物があると気づかなかったのだ。


それは、この辺りの農家の納屋のようであった。


軽トラが一台止まっていて、自販機もあった。


人の気配はないように思えた。


「誰もおらんのかな?」と僕は言った。


「分からん。とりあえず、ここに来たことには何か意味があるかも知れんし、降りてみよか」と石本。


石本はこのような時に特に心強い。


好奇心の塊のような男なので、確かめぬは己の恥といわんばかりに突き進む。


我々はぞろりと、その地へ降り立った。


時刻はAM1時、もうスグ丑三つリクエストが始まる時刻である。


白波瀬勲の時間である・・・


そして、我々の時間も始まろうとしていた。

この旅路は、だれも目指す目的地の正確な場所を知っている人間がいなかった。


とりあえず大きな橋※までたどり着いた後、休憩し先の進路を考えようということになった。


ただ、目下の不安要素は、ガソリンが大丈夫か?に集中しつつあった。



「なあ、どうする?」佐藤がチラとメ燃料メーターを見ながら言った。


「やばい?」と石本。


「そうやなぁ。どうなんやろ、この先どのくらいで山抜けんの?」と佐藤が後ろにも聞こえるように言った。


「微妙やなあ、ちょっと分からんなあ」とヨッシー。


「なあ、ガス欠なったらどうなんの?」と僕。


「うん?押すねん、みんなで一晩かけて押すねん」と直樹は嬉しそうに言った。


「あ、押せんねや!車って押せんねんなあ」と直樹が嬉しそうにいうので、僕も嬉しそうに言った。


「どうする?マジで」とヨッシー。ピンチになるとしっかり考えてくれる。頼りになる人だ。


「とりあえず、進んでみて山を下りれそうな分岐があったら、おりてスタンド探そうか」と石本。


「もう、戻っても一緒やろ、途中スタンド無かったし」とさらに石本。


「せやなあ」となんとなく、佐藤を除く全員で言った。


結論はGOである。要するに、はなっから戻る気は、無い。



20分後、会話がなくなってきた。


ライトを消せば真っ暗な山道で、ガス欠を起こせばどうなるか位、さすがの僕でも分かってきた。


しかも、道はいまだに緩やかな登り、下る道は出てきそうに無い。


車内の目はガスメーターとフロントガラスに釘付け、心鷲掴みである。


吉本隆明という昭和の大思想家がいる。その思想家曰く


”皆が同じ思いになったとき個人レベルでの幻想が共通の意識となりそれぞれの心に同じ像を結ぶ”


我々は、その時心鷲掴み状態だった。


その思想家の言うように、そのときに見たものは幻だったのかもしれない。


でも、確かに我々は見た。アリスを不思議の国へいざなったあの動物の姿を・・・


※大きな橋 谷瀬のつり橋だったと思う(吉川談)

佐藤は基本的にあまり発言しない。


話したいときに簡潔にしか言葉を発しない。


身軽な会議にもまったく意見を出さず仕舞いだったけれど、車は快く出してくれた。


いい人である。


現状の様子は、ひとまず下着の替えはいるだろうということで、石本の家まで着替えを取りに行き、


そこからの再出発となっていた。


「どこ、いったらええん?」佐藤が誰に聞くでもなく運転しながら言った。


佐藤の車は深いグリーンのスターレットでミッションで、ターボ付である。


小さい車だけれど、仲間内で初のターボ車ということで、人気があった。


「とにかく、橋まで行かなあかんやろ」とヨッシーが後部座席から身を乗り出し言った。


佐藤のスターレットは男5人乗るにはかなり狭い、後ろは常時三角座りの状態だ。


走り始めは佐藤が運転し助手席に石本、後部座席に僕、ヨッシー、直樹と座った。


石本亭にて着替えを取って、いよいよ出立。


「そうや、もうちょい行ったら、ガソリン入れたほうがいいな」佐藤がぼつりと言った。


おそらくその時は特に誰も気にはしなかったように思う。


入れなあかんなあと、当たり前のように思っただけだった。


気分は真夜中を駆け抜けて、ひとしきり遊んで帰ってくる、いつものように突然始まって明け方には終わるストーリーだから、対して準備もせずお金も無い。


車内はそんなパッと行っとこな気分で高まっている。


コンビニに立ち寄り、コーヒーとタバコを買う。駆け抜ける準備は万端だ。


バカな話が終わらない、止まらない。


車は南へ向けてドンドン走っていった。


・・・・やはり、ここで気づくべきだったと思う。


ガソリンスタンドは南へ行くほど、夜が深くなるほど開いていない。


気づいたときには、一行は山道を軽やかに和歌山に向けて駆けていたのだった。


「風呂でも、いこか」と誰かが言った、おそらく石本だったように思う。


時刻は22時20分、ちょうどその時に時計を見たから覚えている。


ビレッジには男5人。石本、ヨッシー、直樹、佐藤と僕。


「風呂かあ」とヨッシー。


何ともなしに反論するような、何か考えているような、独り言のように漏れる。


「スーパー銭湯やろ、あっこあいてんの?」と直樹。


「あいとるやろ、どうする?」と石本。


「うーん、前いったとき閉まっとったからなあ、確かあの時も日曜の今くらいちゃうかった?」とヨッシーが直樹に聞いていた。


「確かにしまっとったけど、こんな時間やったか?」と直樹


「もっと遅かったかな?」ヨッシーもあやふやに答えている。


「お金いくらいんの?」と僕。


「1500円くらい、あったら行けるんとちゃう」と石本。


とにかく、みんな寝転がっている。猫が日向ぼっこしてるみたいにゴロゴロしながら話していた。


「なあ、川掘ったら温泉出てくるのどっかにあったよな、あれどこやったっけ?」とヨッシー。


「あれは、お前、和歌山の方やろ」と石本。


「そこ、いこや。タダなんやろ。どのくらいかかんの?」と僕。


「そうやなあ、今から行ったら風呂入って朝の5時くらいに戻ってこれんちゃう」とヨッシー。


「あ、そんなもんなん?それやったら、いこや!」・・・・・・



この物語は、こんな風に日向ぼっこしている猫達が、次はあの公園にいこうか、という程度のいい加減さと身軽さから始まった、様々な障害に満ちた2泊3日の旅紀である。

ビレッジにはほとんど陽が差さないと、依然書いたように思う。


なので、朝なのか夜なのかがよく分からなくなってしまう時がある。


あるとき、MYが夜の22時に飛び起きた後、


「ヤバイ、遅れる、単位ヤバイ」といいながら、慌てて出て行った。


少したってジュースを片手に、彼は恥ずかしそうに帰ってきた。


みな朝夜を間違った記憶はあるけれど、本当に出て行ったのは彼だけだったと思う。


とにかく、冬にもなると、ひと時を除いて終日暗い。


そんな中で暮らしていると、あまり昼の外出に気が向かなくなる。



たまには外にも出なければと、時折石川のそばに立って川を眺めた。


記憶に残るのは、新年明けたての石川だ。


この風景には”凛”という言葉がぴったりくる。


風が無く静かで、冴える厳しい冷たさがある。


その中でぽつんと身体が冷え切るまで川を眺めた、何を思っていたかは忘れてしまった。



今から思えば、その辺りは田舎だったのだろう。


住んでしまえば勝手なもので、そこが世界の中心になってしまう。



ビレッジの川べりには砂利が敷き詰められた道があって、そこから路上駐車している


道まで歩いて行かなければならなかった。


石川を左に見て、ザクッ、ザクッと砂利を踏みつけ歩いていく。


誰ともすれ違わない静かな道。


寒い寒いと言いながら、小走りに車までゆく。


今日はどこで退屈しのぎをしようか?今日は何を食べようか?


今ではそんな思い出が、大変懐かしい。




学生の頃、よく堺の市場に天麩羅を食べに行った。


2件あるのだが、1件は繁盛しており、常に長い列ができていた。


もう1件は「あば新」といって、うるさい店主がガイガイいいながら、天麩羅をあげており


人気がなく、あまり待たずに入れた。


私たちはよく、あば新の方に行った。


大きな理由は早く食べられるからだけれど、その店主の事が面白かったので、


好奇心がたっていたようにも思う。



ある年末に天麩羅を食うついでに、市が賑やかだったので食材を買い求めた。


TM SI HY NM MY まあいつもの面子で、TMに捌きをお願いする算段になった。


一人当たりの予算を決めてのそれぞれの食材探し。


いくらや、はまちなどそれぞれが好きな食材を買い求めていた。


私は生牡蠣を買った。


1箱40個くらい入っていて、2000円也、安い。


ビレッジに戻り早速、捌く。


それなりにお造りが出来上がり、アラの煮物が出来上がり、鍋が用意された。


日本酒を余り金で買い求め、年末に乾杯をした。


牡蠣は買い求めた時のイメージよりも多く、食べても食べても尽きない量であった。


とにかく、新鮮で旨かった。


TMもビレッジの切れない包丁で、本当に頑張ってくれた。


笑いの絶えない、幸せな宴であった。


年末になると、あの宴を思い出す。