車は快調に川湯温泉を目指していた。
ストレスがなくなり、車内は俄然、和やかなムードだ。
時刻は9時過ぎ、そろそろ腹も減ってきた。
「なあ、腹減った」僕は食いしん坊なのだ。
「どないしよか?とりあえず適当に店でもはいろか?」と石本が皆に、ほんでええやろ、な顔して言った。
「でも、コンビにみたいなんで適当に買ったほうが安ない?」と僕。
「せやな、この先あんまりいったら観光地になるから、店屋とか多分高いかもせんで」と直樹。
「まあ、とりあえず、あったら考えようや」と石本がくくった。
「あっこ、行ってみよか」佐藤が大きな橋を渡ってスグ右手にある1件の店屋を指差した。
「おう」石本が車線を斜めに移動しながら、店前の砂利の上に車を停めた。
「何ココ、駄菓子やちゃうん?」直樹がチラと店を覗きながら言った。
「でも、ラーメンとか売ってんで」と僕。
「ほな、ラーメン買うてお湯どうすん?」と石本。
「お湯くれへんかな?」と僕。
「お湯やったら、ええよ」と店の真ん中にいたオバアが突然しゃべった。
「なんやったら、奥で食べてってええよ」とさらにオバア。
「ええの?それやったら、早よ買おか」石本がカサカサとラーメンの袋を漁りながら言った。
「これ、オレ昔、箱買いしたで」と直樹が、ボタンを押すと出てくる10円の丸いガムの箱をつついていた。
「あ、これ、オレいっちゃん好物や」とよっちゃんいかを片手にヨッシー。
「奥、ほんまにエエの?」石本がオバアに念押しするように聞いていた。
「ええよ、ポットあるからそこで食べ」とオバア。親切な田舎心が寝不足の頭にしみる。
奥のテーブルに座ると大きな瓶に、梅干や、ラッキョウが漬かっていた。
「コリ、コリ、コリ」石本は我が家のようにラッキョウを食べていた。
「ちょっと、古いな」勝手に食っといて文句である。
そのあたりは土間になっていて、奥にコタツとたんすとテレビがあった。
オバアはそのエリアで暮らしているようだった。
「なあ、あれなんなん?」とヨッシーがたんすを指差していった。
皆は”何や”とたんすを見た。
「”ハンコ”てシール貼ってる。あっこは”ホウキ掛け”って、シール貼ってる」とヨッシーが続けていった。
「うわ、”通帳”ってシールはってんで」と佐藤。
「盗んで欲しいんかな」と言いながら石本らっきょうの瓶を触っていた。
「几帳面やな」と僕。
「無防備やな」と直樹。
「もうすぐ、着くんやんな?」と僕は佐藤を見ながら言った。
「さっきの橋越えたから、もうスグやと思う」と佐藤。
「せやけど、めっさ時間かかったなあ」とヨッシー。
「うん、明け方の5時にはビレッジに戻るゆうとったのになあ」と僕。
コリコリコリ、石本がまたラッキョウを食べている。
「とりあえず、イコか」と僕。
オバアに別れを告げて、店を出た。
別れ際にオバアが言った。
「あのなあ、昨日まで大雨降っとったから、水多なってるかもせんから、気イつけや」と。
・・・・年寄りの言葉にはキチンと耳を貸すべきなのである。
我々は当時若かったのだ。まだ、21だったのだ。
見たいものと聞きたいものだけが、我々の知覚の限界だった。
そんな若者に、川湯温泉は決して優しくなどなかったのだった。。。