愛の選択〜9〜

イムジャ…なぜ目を覚まさぬのだ…

チェ・ヨンは、静かに横たわり、眠り続けるウンスの髪を梳き、熱い手拭きで顔を拭う…

ウンスの側を一時も離れず、食事をする事も忘れ…テマンを心配させている。

共に布団に入り、その温かな身体を狂おしい程腕に抱き、ウンスの耳元で優しく話しかけていた…

ふっと昔を思い出す…

イムジャが徳興君の毒に侵されておった時も、こうしてあなたに話しかけていた…今はあの時と違い、イムジャを腕に出来る俺は幸せ者です…

またしても徳興君があなたを傷つけた…俺は次にあいつに逢うたとき…王命など構わずに斬り捨ててしまうだろう…

イムジャ…早く戻って来い！俺はここです。またその眸に俺を写してくれないか…

＿＿＿＿＿＿＿＿う…ん…声が…チェ・ヨン？…チェ・ヨンなの…？

チェ・ヨンの柔らかな甘い声が、ウンスの身体に染み透るように響き、優しくウンスを夢の中から現実へと引き戻す…

ピクっと瞼が動きふ～っと吐息を吐き出した…

「イムジャ！俺です！目を開けて！イムジャ…頼むからもう起きてくれぬか？！」

チェ・ヨンは腕の中にいるウンスの変化にすぐに気づき、声を荒らげた。

ウンスがゆっくりと瞼を開く…

「…チェ・ヨン…？私…」

「イムジャ！大丈夫ですか？丸一日目を覚まさず…どれほど心配したと！」

「私…どうしたんだっけ…徳興君に…」
ウンスは、曖昧な記憶の中…必死に思い出そうとしていた。

「イムジャ…来るのが遅くなってすまなかった。此度の事は、始めから全てあ奴の仕組んだ事…今皆で探しておる。口惜しいが、またどこかに潜ってしまったようだ！」

「あっ…私…あいつに…夢…？」
ウンスは自分の着物の合わせを開き、徳興君に付けられた痕に視線を注ぐと、顔を歪め思い切り爪で引っ掻いた！

チェ・ヨンが慌ててウンスの手を握り締め止めさせる。
「イムジャ…やめてくれ！俺が悪かったのだ…すまない」

血の滲むウンスの胸元に唇を這わせ、舌でたわやかに血を舐めとっていった。

「あなた…ごめんなさい…私…」

ウンスが言い終わる前に唇を塞ぎ、熱い舌を忍ばせてくる。チェ・ヨンの舌から微かに血の味が滲む…

「イムジャのせいではない！あなたを傷つけたあの男…いつか必ず俺がこの手で！イムジャ…もうあんな奴の事は忘れてくれ。あなたは体力を戻さねばならん。こんなに痩せて…今、粥でも作らせます。しばらくここに滞在すると陛下にも報告してあるので、あなたの好きな風呂につかり、ゆっくりと過ごせば良い」

潤んだ眸で自分を見つめるウンスの片頬を、大きな手で包みこみ瞼に唇を寄せる。

「…あなたも…一緒に居てくれるの？」
答えはわかっていたけれど、甘えた声でウンスは聞いた。チェ・ヨンの声をもっと聞いていたかったのだ。

「ええ、もちろん。しばらくあなたから離れません」

「チェ・ヨン？その顔の怪我…」

ウンスがそっと傷だらけの顔に触れる…

「かすり傷です。どうということもない」

「きっと私のせいなのね…ありがとうチェ・ヨン」

「いえ…あなたが無事で本当に良かった…」
甘い吐息がウンスの頬を掠め、ようやくウンスは穏やかに微笑み返した…

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

それから三日後の事…

チェ・ヨンが呆れ顔でウンスを見つめている。

「イムジャ…まだ食らうのですか？」

ウンスは口を動かしながら
「だって、あなたがいっぱい食べろって…もう身体から薬もすっかり抜けたし！う～ん！美味しい！温泉て良いわね～！お肌もほら見て！スベスベよ！ねぇお酒呑んでも良い？ねっ？もう大丈夫だから！ねっ？」

「…だめと言うても呑むのであろう。１本だけですよ。その代わり…もうそのように元気であるなら、今宵…イムジャを抱いても良いか？」

「げほっ！もう…ご飯時に急に何言い出すの？」

真っ赤に頬を染めたウンスを、愛おしそうに見つめ含み笑いをすると、
「イムジャが元気になるまではと…耐えておったのだが…前にも言うたはずだ。俺は飯などよりイムジャを喰らいたいと」

「う、うん…嫌だなんて…言った事…ないでしょ？あっでも…もう１回温泉に入っても良い？」

「ふっはい。何度でも…だが、あまり遅いと女湯まで攫いに参ります」
と、ウンスの頬についた米を取り、口に運びながら、他の誰にも見せることのない、蕩けそうなほど甘い笑顔でウンスを見つめ返す。

この顔を迂達赤が見たら、腰を抜かすかも知れない…

「もう…あなたったら！ふふ」

熱く優しい時が物柔らかに二人を包み込んでいった…