怪我の治療を始めたウンスだったのだが、言葉を失ってしまった…
「これは…曹操が…?酷すぎる…」
華佗の右手の甲はパックリと口を開いていた…
「…はい…私の利き腕を押えさせ、二度と医者が出来ぬようにと指を切り落とそうとしたのです…必死に手を動かし、何とか指だけは免れ…刀は手の甲に刺さったのです…」
「何でこんなことを…許せない…人を何だと思ってるの?華佗さん、手を動かしてみて?うん…良かった…巧く神経は避けているわね。これなら傷が癒えれば大丈夫。でも少し縫わないと…チェ・ヨン!手伝って…でも血には触れないでね」
「はい、わかりました」
「ウンス殿、私も少しばかり医術の知識は持っております。ぜひお手伝いをさせて頂けませんか?」
「孔明さん、助かります…あの…この時代…疫病のお薬として何かありますか?」
「ああ…いまあちらで桂枝の煎じ薬を作らせています。煮出して飲めば少し症状が緩和されます」
「桂枝…ああシナモン…そうね、身体は温まるかもしれないけど薬としてはあまり効果が見込めないわね…孔明さん、お湯を沸かしてもらえますか?出来れば川の水ではなくて山からの湧き水とかがあればそちらの方が良いんだけど…」
「わかりました。すぐに」
ウンスは素早くカバンから必要な器具を取り出し、少し痛いけど我慢してねと、消毒をした華佗の手に注射器を刺し麻酔をかける。
「どう?つねっても痛くない?」
「はい、痛くありません…これは…?」
「麻酔と言うの。あなたに教えた麻沸散のようなものよ…じゃあ縫合に入るから華佗さんも、孔明さんもよく見ていてね?」
「はい、お願いします」
ウンスはチェ・ヨンから縫合セットを受け取ると、華佗の手を縫い始めた…
天界で初めてイムジャを見たときから思っていた…この方はいざという時は俺よりも肝が座っておるかもしれぬと…あっという間に華佗の真っ赤に開いた手の甲と掌は塞がっていく。俺は隣でイムジャの“かっと”と言う声に合わせハサミで糸を切るだけだ。
そんなイムジャをあの時のように見つめる男がいる…あの時のチャン・ビンのように…
完全にこの男はイムジャの医術に引き込まれている。無理もないが…この男、似ておるのかもしれん…俺の友に…
ウンスを見ると額に汗が光り零れ落ちそうであった…拭おうと手を伸ばすとスっと横から孔明が手を伸ばしウンスの汗を拭った。
「あっありがとう」
「…いえ…あなたは本当に天より参られたのかもしれませんね…この医術も、あなたの美しさも目を見張るばかりです」
その腕を弾き飛ばしながらチェ・ヨンが間に立ちはだかる。
「この方に触れることは誰であろうと許さん!」
「ふふ、あなたはウンス殿のなんなのですか?」
「俺は…俺はこの方の…う、ううん…お主には関係のない話である」
「そうとも言えますが、そうはならぬかもしれません。人の運命とは不可思議なものですから…さぁ…終わられましたか?まもなく辺りは闇に包まれます…あの者達を焼かねばなりません…お二人にも来て頂きたいのですが…」
「わかったわ、チェ・ヨン…やめて!さあ行きましょ?」
櫓のところまで足を運ぶと辺りはすっかり闇に包まれ、たくさんの兵達の居並ぶ中、既に遺体には火がかけられていた…
孔明を見ると、灯篭のような物に火をつけていた…兵達も同じ物を持っていて一斉に炎をつけると、気球のようにフワフワと空へ舞い上がっていく…
「孔明さん、この天灯は本当にあなたが考えたのですね…歴史の通り…本当に頭の良い方だわ。連絡手段に使っていたのよね?」
「…さすがは天のお方…はい。そうです。天灯と言う名なのですか…この度は曹操に投げ捨てられた霊達の鎮魂のために灯しました…」
「天でも同じ様にしている国があるわ…皆の魂が安らかに眠れますように…そうだ、忘れていたわ…周瑜さんはいらっしゃるかしら?小喬さんのお腹の赤ちゃんの事でお話ししたい事があるの…」
「赤子に何か?」
「いえ…そういう訳でもないんだけど…」
そこへ数人の兵が慌てて走ってきた!
「大変です!武器庫が燃えています!」













