「父上!そのような弱った体で大丈夫なのですか?急にどうされたのです?」
「……イムジャが…母上が昨夜夢に来てくれたのだ。そして、昔のように俺の足の脛に蹴りを入れて行かれた…。私との約束は守らぬつもりかと…。俺は…父はな…何があろうとイムジャとの約束だけは、破れぬのだ。お前たちにも本当に心配をかけてしもうたな…。もう大丈夫だ。飯も食らうし身体も動かそう。俺は、俺の生を全うせねば、イムジャの元へ参れぬのだ…。武士の誓いをしてしまったのでな。ハヌル…次の手紙を読んでもろうても良いか?」
「はい…いつでも…」
「愛するチェ・ヨンへ」
チェ・ヨン…あなたは今、大丈夫?食事はちゃんと食べているかしら?笑えているのかな?いつも同じ心配ばかりなのだけれど、あなたの事がわかるからこそ、この恋文を私は書いたのよ?お願いだから頑張って力強く生きて欲しい…
昨夜、昔の夢を見たの…徳興君の毒に侵され作っていた解毒剤もなくなってしまった時の夢を…。あの時のあなたは、剣が持てなかった。覚えてる?手が震えて力が入らなくて…でも、あなたの身体は異常がなかったのよ…。病だったのはあなたの心…。
あなたの心が悲鳴をあげていたの。そんなあなたの異常にいち早く気が付いたのは…トルベさんよね?そしてあなたのかわりに、キ・チョルに斬りかかったと聞いたわ…あなたは自分を責めているのでしょう?でもキ・チョルは私を探しに来たのよね?彼を死なせたのはあなたじゃない…。私よ…。ずっとあなたに言いたかった。だからもう自分を責めるのはやめてね?全ての事に責めを負う…あなたの悪い癖よ?ジフ君も本当に幸せそうだわ。あなたのおかげで…誰もあなたを責めたりしないから…。
あの時、迷いがあるとあなたは言った。私を守ること、王様を…この国を護る事をいつも考えてくれていたあなた。でも両立は難しかったのよね…。あなたの心に負担をかけてしまってごめんなさい。許してくれる?
身体の怪我を治すことは簡単なのよ?でもね…心の怪我を治療することはとても難しいの。私はあなたの心の傷を治してあげられたのかしら…それが今でも心にあって気がかりでしかたない…
あの時…ここに残りたいと言った私をあなたは全力で叱った…そして残ってくれと言ったことを忘れてくれと…
ちゃんとわかっていたのよ…あの言葉はあなたの優しさから出た言葉だと…あなたは私と共に生きられなくても場所は違えど、どこでもいいから私にただ生きていて欲しかったのよね?それは今、私が思うことと同じよ。私は先に天へ召されてしまうけど、あなたには生きていて欲しいの…。
だから淋しくなったら私を呼んで?イムジャと…すぐにあなたの側に寄り添うから…。
怒った顔で…天門の前で待つから荷物をまとめろと、あなたは私に言った…。強制的に連れて行くと…。でもね、私はあの時…毒で死んでしまっても良かったの…あなたの側を離れることなんて出来なかった。どんなことがあろうとも。
きっとあの時帰っていたら…ただ息だけをして一人…死人のように生きて…あなたのいない部屋に帰り“そこにいるの”…と問う毎日を本当に過ごしていたでしょうね…もうあなた以外の人と共に生きることなど考えられなかった…。こんなに長生きもしていなかったと思うわ。あなたと共に居たからこそ、この歳まで生きることができたのよ。チェ・ヨン…本当にありがとう。
人は、後悔の中生きていくの…あの時あぁしておけば良かった…なんであんなことしてしまったのか、他の道を選べば良かったと…
でも私には後悔なんて本当にひとつもないのよ…自分で選び、やりたいことも全て出来たわ。何よりあなたとこんなに長く優しい時を過ごしてこられた…あの時、命をかけてここに残ると決めた自分が誇らしい…。
死してなお、あなたのために私に出来ることは何か…今それを考えているわ…
また恋文を書くわね。
チェ・ヨン…笑って?…あなたの側には私がいるわ。いつも…いつまでも…
ウンス
「イムジャ…俺は、本当はあなたを帰したくなどなかった…でもなんとしても生きていて欲しかったのです。思い出しました、あの時の俺の心の内を…。俺は、生きていくしかないのですね?イムジャ…ありがとう」
「父上…本当に母上はすごい方ですね…天界から来られたからでしょうか?私も母上のようになりたいです…」
「あぁ…誰もこの方には叶わぬ…王様さえも…唯一無二の天界の女人だからな…」