愛するチェ・ヨンへ…3

「ハヌル…今夜はありがとう…全て読んでもらいたいが、きっとイムジャのことだ…毎日少しずつ時間をかけ読んで欲しいと思うておるはずなのだ、俺を生かすために…また明日医院の仕事が終わったら頼んでも良いか？」

「はい、終わり次第参ります。いつでも言って下さい、父上…。父上が元気になられるのでしたら、それは…私達のためでもありますから」

「すまないな…心配ばかりかけて」

「父上、我らのことなど良いのですよ？何度も申したはずです。父上と母上が憧れであると…」

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次の日の夜……

「父上…それでは読みますね」

「愛するチェ・ヨンへ」

チェ・ヨン…昨日はありがとう。釣りに連れて行ってくれて…無理にお願いしてごめんなさいね。冬になればもう行けなくなってしまうでしょ？来年の春に、また行けるかしら…病の進行がどうなるかわからないから、どうしても今、あなたと行っておきたかったの…。

こうしてチェ・ヨンと2人、何度釣りに来たかしらね…？来る度いつもあなたはたくさん釣っていたわ。なのに私１匹も釣れないなんて当たり前で…。くやしくて場所を変わったり釣竿を交換したりしたけれど、釣れたためしはなかったわね…。

あなたによく言われたっけ…イムジャは雑念が多すぎるのです、無にならねば魚は釣れませぬと…昨日のあなたは雑念だらけだったの？…きっと私がそうさせているのよね？ごめんなさい…。

私のことばかり気にかけてくれて、あなたは釣りどころではなかったのね…寒くはないか、気分は悪くないかと私の心配ばかり…あなたはどこまで気がついているのかしら？

結局あなたは釣れなくて私が人生初の大漁だった…

あの時の私はたった一つの事しか考えていなかったから…あなたのとなりにずっと一緒にいたい…たったそれだけのこと…

家に戻って釣った魚を焼いてくれたあなた…イムジャはいくつになっても魚を食べるのが下手ですねと、いつものように綺麗に身をほぐしてくれて…あの時、私は疲れてしまって、お箸も持てない程にだるくて食欲もなくて…でも要らないと言えば、きっとあなたが辛そうな顔をすると思ったから、食べさせてと甘えたふりをしたわ…

昔もこんなことがありましたねとあなたは言った…そう、あの時も甘えたふりをして、心配性のあなたに嘘をついたわ…あの時は薬の入った器さえ手に持てなかったの。あなたを愛しているからこその嘘…きっと神様も許してくれるわよね？

少し微熱のある私を、寒くはないかと後ろからそっとその腕の中に抱きしめて、眠りについたあなた…私は本当に幸せね…もう７０過ぎたお婆ちゃんなのに、あなたは昔と何一つ変わらず…いいえ却って深い愛情を与えてくれるわ。４０年分のあなたの愛が私の心をいっぱいにしてくれる。だから病の進行がおそいのかもしれない。あなたのおかげよ…。ありがとう。

あなたに出逢えたこと…今思ってみても夢のように思うことがあるのよ。あなたがくれた人生…あなたと共に歩んだ長い年月…あなたが居れば、ただ私を抱きしめてくれれば、他には何もいらないの…

チェ・ヨン…あなたは今元気でいるの？お願いよ…そんなに悲しまないで？人は一人で生まれて、一人で死ななければいけないの。いつか…その時が来たら、あなたにまた逢えると信じているわ…だから笑って？あなたの笑顔を最後まで守りたいの。約束よ…。チェ・ヨン、今日も愛してくれてありがとう。

ウンス

「イムジャ…気づいていました。だいぶ前から…夜中にそっと布団を抜け出し、吐いておられましたね…その軀も軽くなり、いつも冷やっとするあなたの肌が少し熱をもっていましたから…。笑えるかどうかわからぬが、イムジャにまた逢えるのならば…その願いが叶うのならば…生きねばならぬのですね。今は…。」

「父上…母上が亡くなる少し前から毎日のように我らに言っていた事があるのです。父上をお願いねと…。きっと父上は食事も摂らずいつまでも、私の死を哀しむだろうから、目を離さず側にいてあげてくれと…。でも、やはり私達では駄目でしたね…母上の手紙だけでこんなにも父上は、生きる気力を取り戻したのですから…」

「いや…イムジャ亡き後、俺が生きておられたのは、お前達のおかげだ。ありがとう…ハヌル、また明日頼むな…。」

イムジャ…イムジャと心で呼べば、俺の記憶を優しく擽る花の香が辺りを優しく包み込んでいく…。