今までの俺は、あまりに良いことがなかったからだ。
母上を幼い頃に亡くし、いつも淋しい想いをしてきた。それは、父や叔母上がいたとて拭えるものではなかったのだ。
いつも友を羨ましく見ていた。母に撫でられ、怒られる友を…。記憶にない母を思うても仕方のないことと頭では理解して居たが、思わずにはいられなかった。生きていて欲しかったと…。
病弱でか細い母だったらしい…。医員にはとてもじゃないが子供など産めぬと言われたのに、無理をして俺を産んで下さったようだ…。
俺はずっと、何のために産まれて来たのかと自問自答してきた…。この国を守るためか、両親の死を見届けるためか、メヒに出逢い彼女の死を記憶に刻み込むためか、ムン・チフ隊長の代わりに赤月隊を率いるためなのか…。その、どれも俺の心を虚しくさせる…。満たされない想い…。いつも俺の心は空虚なまま何者からも置いていかれていたのだ。
母を亡くし父も亡くし、隊長やメヒ、赤月隊の隊員全てを亡くし、一人ぼっちの俺に何の生きる意味があるのか…。
イムジャに出逢う前の俺は死んでいたも同然でした…。
イムジャを天界より攫い、一目見た時から惹かれ恋い焦がれ、やっと想いをお伝えしてから既に5年の月日が経とうとしている…。
俺に…こんな俺を父親にして下さるとイムジャは申してくれた。
数え切れぬほど、人を殺めてきたこの俺が、人の子の父親になどなって良いのであろうか…。そんなおれの迷いなど知らず、弾むように真っ直ぐに俺を見つめ、子が出来たと話してくれたイムジャ。ありがとうイムジャ…。あなたが愛おしくて、俺はそんなあなたにどう報いれば良いのでしょうか?
俺の頬を知らぬ間に涙が伝う…。これが嬉し涙と言うのですね?
俺は、イムジャに出逢うために…天女であるあなたと出逢い、共に生きるためだけに産まれて来たのだと、今ならわかります。
神や仏にも祈りましょう…俺の居ぬ間は、イムジャと子をお守り下さいと。あなたに出逢わせてくれた事にも、これから毎日礼を申しましょう…。
ありがとうイムジャ…。必ずやお守り致します。
永遠に共に…。

にほんブログ村