1枚目の手紙はそれで終わりだった。2枚目を開く。
とても上手なハングルで書かれていた。
お爺様、お婆様、ハヌルでございます。
この手紙を書いた二日後に母上は亡くなりました。母上が、自分は白血病と言う
血液の病気で、この高麗では治す手立てがないと申しておりました。
父上には言わないでねと笑っておりましたが、体中青あざだらけで…
父上も気がついていたと思います。母上と風呂に入るのが日課でしたから。
ですが、母上はとても幸せそうでした。息をひきとるその時まで、父上の腕に抱かれて笑っていたのです。
「私が居なくてもヤケにならず寝てばかりいないで…ちゃんとご飯も食べるのよ…輝きながら生きて…」
と父上に諭すように申しておりました…
息をするのも苦しいはずなのに…私達に、父上をお願いねと、最後まで父上の事を思って逝ってしまいました…
母上の最後の言葉です。
「約束通り、最後まで守ってくれてありがとう…本当に私は幸せだった…いつまでもあなただけを愛しているわ…チェ・ヨン…」
…そう言って息を引き取りました。
父上は、母上の亡骸を冷たくなるまで抱きしめていました…。
母の葬儀は、国葬にて行われ国中の人が涙してくれたのです。
万民平等が口癖の母上でしたから…。私達家族の誇りです。
ですが、それからと言うもの、父上は食事も取らず、起きているのか寝ているのか、わからぬような状態になってしまったのです。
そんなある日、突然道場へやってきて、子供達を指導すると言い出しました。
父上に突然どうしたのかと尋ねると、夢に母上が出てきて、あなたは自分の生を全うしてからこっちへ来いと…
約束を守らないつもりなのかと怒って、足の脛を蹴ったそうな…。
やはり鬼神と呼ばれた父上を、掌で転がせる母上には誰も敵いません…。
しかし、元気だったのも幾日でもなく、父上も母上の後を追うように、初雪の朝一人亡くなっておりました。老衰でした。
見ると父上は、笑っておったのです。きっと母上が迎えに来てくれたのでしょう…。
そして、父上の手には…
もう一つの封をあけてもらえますか?父上が胸に大切に大切に抱いていたものが入っています。
「お父さん、開けてみて」
「あぁ…」
それはなんと、白髪混じりの柔らかな長く赤い髪…
そしてやはり白髪混じりの黒髪が入っていた…
「ウンスや…うぅ…」
「チェ・ヨンさん…」
二人は、我慢できず声をあげて嗚咽し涙していた…。
父上は、母上の亡骸からひと房の髪を切り、懐に入れておったようです。
母上の髪を梳くのも日課でございましたから。
黒い髪は父上のものにございます。
私も良く隣で父上に髪を梳いてもらったのを覚えています…
父上の、書斎から見つけた手紙も同封しています。
ハングルでこちらに記しておきます。
父上様、母上様、先日ウンスさんが天に召されました。彼女は私に全てを与えて下さった、天より参った美しき天女にございました。私は、婚儀のお許しを得る時の、武士の約束を果たせたのでしょうか?
私も、もうすぐウンスさんの元へ参ることになるでしょう。二人いつまでも一緒におります。
もし、先の世に私達の墓が残っておれば、彼女のために参ってやって下さい。
父上様、母上様、私を許して頂きとうございます。
チェ・ヨン
お爺様、お婆様、私達からもお願い致します。父上をお許し頂けないでしょうか?
母上をこちらの世に引き止め、お二人に逢えぬ運命(さだめ)としたことは、常に気にかかっていたようです。
母上は…何言ってるの、自分で選んだのよと笑い飛ばしておりましたが…
子供の私達から見ても本当に羨ましい二人にございました。常に互いを信じ、愛しそれを言葉にする。
思ってたって気持ちは伝わらないでしょ?母上の口癖でした。私達4人は、父上、母上の子に生まれ、本当に幸せにございました。
お爺様、お婆様、何卒ご息災でおってください。母上の願いにございます。
この手紙がお二人の手に届きますように…
ハヌル
パダ
「あなた…今度二人のお墓参りに行きましょう…」
「あぁ…ユニさんの家にも行かなくてはいけないな…」
「あっ…」
その時、どこからか、花の香りのする暖かな風が二人の頬を撫でていった…
「イムジャ…一生お守りいたしますので俺の側におって下さいますか?」
「私を守るの大変よ?」
「知っております…」
「一生を?」
「一生です、愛しています、イムジャ…… 」
FIN

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