そこには血の気のない顔をした、全身真っ赤に染まった男が倒れて居た。
その部屋が血の匂いで充満するほどの出血である。
チェ・ヨンは辺りを伺い、他に誰も居ないことを確認してから中に入る。
ー大丈夫か?おい!
ーおとう…!わぁ~ん!おっと~!?
ウンスは女にヨンスを頼む。
ーすみません!この子を抱いててもらえますか?チェ・ヨン、そこどいて!
ーはい…。しかし…。
ーぅぅ…ヨ ヨンスは…?
ーここに居るわよ!喋らないで!
ウンスは刺された腹を、脱いだ自分の服で押さえている。かなりの出血で、おそらく腹腔内は血の海であろう…。肝臓の動脈か……。
ーょかった…ちゃ…んと…逃げ…て…くれた…のだ…な… へ ヘスが…つ…連れて…いか…ゲボッ!……
そこで息絶えてしまった…。ウンスは首の脈と呼吸を確認するも、手遅れだったようだ。この状態では、人工呼吸も意味がない。ウンスは、瞼を閉じてあげた。
ウンスは戦以外で、医者として初めて人の死に立ち合った…。
現代で、外科医をやっていた時にはオペの腕も良く、それほどに重病の患者に当たった事もなかったので、自分の担当の患者で亡くなった者は一人も居なかったのだ。それは驚く事に、研修医の時代からそうなのだ。
だがしばらくして、命の重さへの責任と貰える賃金の不当なバランスにほとほと嫌気がさし、美容整形の道へ進んだウンスであったが、人の死はかなりのショックだった…。
ヨンスの泣き声で少し我に返る。
血だらけで呆然と涙を流すウンスを、チェ・ヨンがキツく抱き締めていた。
ー大丈夫…。俺がここに居ます。落ち着いて。泣かないで下さい。
ーチェ・ヨン…。私…何も出来なかった…。何も…。
ーイムジャのせいではありません…。ヨンスの父を殺した奴が悪いのです。必ず捕らえますから。泣かないで…。
チェ・ヨンは、ウンスの意識をこちらに戻そうと、かなり強めに抱いている。そして、抱き上げ一旦外へ出る。
ーチェ・ヨン…血…血で…あなたまで汚れるから…は…離れて…
チュッとキスをして、チェ・ヨンは何も言わず、更にキツくウンスを腕の中にかき抱き髪を撫でる。
チェ・ヨンは、女に手拭きと水の入った桶を持って来てくれと頼んだ。
女は家にヨンスを連れて行き、手拭きと桶を持って来てくれた。
濡らした手拭きでウンスの顔や手を拭いてやったが、服が真っ赤に染まっている。このままでは目立ち過ぎ、帰ることも出来ない。
チェ・ヨンは、女にマンボ姐の居場所を教え、医仙の服を持って来てもらえるように言伝を頼む。
ーい 医仙様で?ではあなたは…。
ーあぁ、そうだ。しかし他言無用だぞ!良いな?急いでくれ!
ーは はいっ!

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