私、親として失格なのかもしれないわ…。ここ、高麗の人間じゃないから、私の常識ってかなりズレてるでしょ?子供達に辛い想いをさせているのかもしれない…。お母さんに逢いたい。いろいろ相談したいのに…。
この間ね、ハヌルとパダと町へ出掛ける約束だったの。そろそろ出ようかって言う時に、火事で気道が火傷して呼吸の出来ない急患が運び込まれて来て…。
2人にはちょっと待っててって言ったんだけど、むくれて母上の馬鹿、また約束を破るのですか?って言うの。このところ立て続けに約束守れなくって…。
2人には、母は、あなた達の母である前に、医者であり、この人は母が治療しなければ、死んでしまうと説明をしたわ。
そうしたら、二人とも泣きながら走って家の方に戻って行ってしまったわ。何も言わずに…。
働きながらの子育てって難しいわね…。この時代の人は、働くお母さんなんて居ないから誰にも相談なんか出来ないし…。
それでね、その人の治療が終わった時には、もう辺りは暗くなっていたわ。抗生物質がないから、後はこの患者さんの気力次第ね…。最近火事で怪我をして運ばれて来る人が多くて…。放火なのかしらね…。
夕飯の時間になって、ミンジュンにご飯だから2人を連れて来てと頼んだら、部屋には居ませんとミンジュンが…。
大慌てで探したわ!家中探したけどどこにも居なくて…。
テマン君が居たから、チェ・ヨンを呼びに行ってもらったの。彼が戻って来るまでの間も、学校とか病院とか探してみたけど、どこにも居なかった…。
誰かに連れ去られたのかしら…そんな事になったら…。チェ・ヨンに迷惑かけちゃう。また、取り引きの材料になってしまうわ。どうしようって本当に焦ったわ、お母さん…。
すぐにチェ・ヨンが迂達赤の新人さん10人ほど連れて、戻って来てくれて…家中探してもらったわ。
彼が帰って来てくれた時、我慢してた涙が溢れて来て…走って飛び付こうとしたら、転んで足首を捻挫してしまって…。
彼が私を抱いて病院まで連れて行ってくれたわ。チェ・ヨンに謝ったの。ちゃんと子供達を見て居なくてごめんなさいって…。
そしたら、私のせいじゃないからと。2人は必ず見つけるから心配するなと言ってくれた…。
私…涙も震えも止まらなくて…チェ・ヨンがギュッと抱き締めながら、背中をいつものようにトントンって叩いてくれて…。もし、誰かに連れ去られてしまってたら、どうしよう…。また、あなたの重荷に…と言ったら少し怒った口調で…
“イムジャと子が重荷だなどと二度と言わないで下さい。イムジャと子供達がおるから、俺は生きていけるのです。こんなにも生きる事が楽しいと想えるのはイムジャのおかげなのですから”って言ってくれた。
子供達は必ず探します。町からはネズミ一匹出られないように手配しました。俺との取り引きに使うつもりなら、怪我などしておらぬ筈です。家で報告を待ちましょうって。
もう、空が白々と開け始めた頃だった…。テマン君が走って来て、見つけましたって!チェ・ヨンが、足を捻挫した私を抱きかかえながら、テマン君について行くと、2人は病院の待合室のベンチの中にくっ付いて寝て居たわ…。私が、ベンチに荷物を入れられるように、箱型にしたの。その中に居たわ…。良かった…。
チェ・ヨンが2人を起こして、抱き締めた後、怒ったわ。
父と母がどれほど心配したか、わかりますか?お前達は、まだ小さくて良くわからないかもしれないが、この国と同じだけの重さがあると言うことを、忘れてはいけないと、頭をポンと軽く叩かれていたわ。
二人とも、怒ったチェ・ヨンを始めて見たから、びっくりしたみたいで泣き出してしまったわ…。父上母上ごめんなさいと…。チェ・ヨンが怒ると本当に怖いみたいね。私は一度も怖いと思った事はないけど。
2人に何故こんなところに居たのって、私が抱き締めながら聞いたら…
あの後、病院の外からそっと私を見ていたんですって。そしたら、死にそうだった人が生き返って、母は本当にすごい人なんだと思ってくれたみたいで…。それで私に謝ろうとこっそり病院に入ったみたいなの。
でも私が、病院は清潔を保つため、用もないのに来たらいけないと、小さい頃から言っていたから怒られると思ってベンチの中に隠れて居たら、眠ってしまったんですって…。
ハヌルとパダがね、泣きながら、母上、私達は大人になったら医者になりたいです、いろいろお教え下さいって。
チェ・ヨンと顔を見合わせて泣き笑いしてしまったわ。私の医者としての誇りを、この子達がわかってくれて本当に嬉しい!
迂達赤のみんなと、食事をしてその後4人でお風呂入ったの。ミンジュンも誘ったんだけど、俺は大人なので母上とは入れませぬって…最近一緒に入ってくれないのよね。
2人にね、お風呂でゆっくり話したわ…。2人の父上がどんなにこの高麗の中で重要な人で、私やあなた達が敵の手に落ちたら、父上は私達の為にこの国を裏切る事も出来るほど、私達が大切なのよと…。いつも守ってくれているの。
そしてね、こんなに強い父上を守ってあげられるのも、私達なのよ。父上は、私達が笑って居るのを見るのがとっても好きなの。それが父上の心を守ってあげること。良いですか?って。
2人は11歳なりの理解はしてくれたみたい。はい、わかりました、母上。心配かけてすみませんでしたと謝ってくれたわ。
見るとチェ・ヨンが涙ぐんで居たわ。最近涙腺が弱いのよね…もう、私まで涙が出ちゃうわ。その時、ふと思い出したの…お母さん、お母さんもあの時、こんな気持ちだったの?
あの時は、本当にごめんなさい。喧嘩して家出して、2日も戻らなくって…。始めてお父さんに叩かれたわね…。今ならその気持ちが良くわかるわ。私は2人に本当に愛されて育ったのだと…。
2人の子供に産まれて、幸せよ!
ありがとう…そしてごめんなさい…
また、手紙書くわね!
じゃあね!
1372年5月 ウンス
ーお父さん、2人誘拐じゃなくて良かったですね…ホッとしたわ。ウンスの家出とは訳が違いますからね…。
ーウンスの家出か…思い出すな。俺叩いてしまったんだよな。あの子もちゃんと人の親になってきてるみたいだな。
ーえぇ…それに2人に医者になりたいとまで言われて…。嬉しかったでしょうね。母としても医師としても子供に認めてもらえたんですもの。
ーあぁ…

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