ーチェ・ヨン!厚手のこの位の紙を探して来て!早く!
ー紙ですか?はい!
ートクマン君は荷物をそっと下ろして。彼女の後ろに回って支えてあげて!
ーはい!医仙様!
ーピョルさん、ゆっくり息をして!ピョルさん!
顔色が悪く、唇も紫になって来た。
チェ・ヨンが紙を持って来てくれた。
ーイムジャ、これで良いですか?
ーありがとう…
ウンスはその紙をクレープのように三角にクルクル丸め下を折り込み、ピョルの口元にあてる。
ーゆっくり吐いて。吐くのよ。良い?息を吸いすぎないで。吸って…吐いて…
ーはぁはぁ…
ー大丈夫よ…落ち着いて…ゆっくり息を吐いて…ゆっくり吸うの。
ーイムジャ…ピョルはどうしたんですか?
ー過呼吸と言って酸素…息を吸いすぎちゃって苦しくなるの。こうやって、自分の吐いた息を吸えば収まるわ。
確かに、良くなって来たようだ。
ー収まったわね…。良かった。
周りから拍手が起こる。さすが医仙様。紙一枚で治しちまったと…。
ートクマン君は彼女を連れて先に帰っていて。私たちもすぐ戻るわ。またさっきみたいになったら、これを口に当ててね。そしてゆっくり呼吸するように話して。
ーはい、医仙様。
ーそれから…もしかしたら…ううん、良いわ。じゃお願いね。
トクマンが馬に乗り、半分意識のないピョルをチェ・ヨンが抱え、トクマンに渡す。
ーでは、先に戻っています。
ウンスは、買った品を店の者に持って来てくれと頼んで、チェ・ヨンと帰る。
ーイムジャ、何か気になる事でも?
ー……えぇ。あの子はさっきの男を見た途端あぁなったの。あの男…もしかして…。過呼吸ってね、興奮するとなったりするの…。違うと良いんだけど…。
ーあそこの店は何か怪しいので、ジフに調べさせています。何かあれば奴を捕まえる事が出来ますから。
ーそう…お願いね。それでね、薬屋さんに行って欲しいの。
ーわかりました。
トクマンは意識のないピョルを馬から下ろし、抱き上げたまま部屋の寝台へ運び、そっと寝かせた。
心配で仕方なく顔を覗き込んでいたら、彼女がやっと目を覚ました。しかし目の前に居る俺を見ていない気がする…。
すると、突然叫びだし、自分の腕を噛もうとする。ダメだと言っても聞こえていないようだ。仕方なく後ろから手を掴み、ピョルが怪我をしないようにそっと羽交い締めにすると離して、触らないでと泣きながらトクマンの手を噛んできた。
ーくっ!!
トクマンは、ピョルが自分の手を噛む位なら俺の手などと、思ってそのままにしておいた。
耳元で、大丈夫だから心配しないでと何度も言うと、やっとピョルは戻ってきた。
ー離して!お願い、私に触れないで!
トクマンは、今までとはまた違う胸の痛みを覚えた…。
ーあっ、………すみません…。もう俺は…俺は…ここには来ません…。武士の約束を致します。でも心配なのでどこにも行かず、ここにおって下さい…。ここは安全ですから……お願い致します…。
ー違うの!…ごめんなさい…。トクマンさん。私が…私が…。汚れてしまっているから…
……さっきの男に、身体に触れられ…。で、でも…思い切り噛み付いたら…それ以上は……。その後、あいつに二ヶ月も閉じ込められて居て…おかしくなりそうで……。だから男の人が怖くて…。
ピョルは、自分の言葉で一生懸命話した。
ー俺も、怖いですか?ピョルさん…。怖いなら、あなたから見えない所に行きます。あなたにはいつも笑顔で居て欲しいから…。
ピョルは自分が噛んでしまった、トクマンの腕を撫でながら…首を振る。
ーうぅん。何故だかトクマンさんの事を、怖いと思った事は一度もないわ…。血が出てる…。本当にごめんなさい…。
ー泣かないで下さい…。俺は矢に当たった事もあるんですから!こんなの、なんともありませんよ!ほら、見て!
トクマンは、ウンスに縫ってもらった傷跡を見せようとしたが、ピョルがようやく笑ってくれたのを見て、思わず抱き締め、背中をトン、トンと叩いた。
ー俺が怖いですか?
ー……うぅん…怖くないわ…男の人の手がこんなに安心する物だなんて知らなかった…。
しばらくそのままで居た二人だった…。

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